Special Reprt

第17回

多様性を重んじるからこそ、

女性らしい視点、気配りが尊重される

丹青社(東京・港区)

株式会社丹青社は2015年9月に行った本社移転を機に、「未来創造拠点」というテーマのもと、「コミュニケーション&コラボレーション」というキーワードを掲げ、仕事の効率化とクリエイティビティを向上させる環境づくりや、社員一人一人の働きやすさを支援するための制度の見直しを図っています。もともと個人のオリジナリティを尊重するカルチャーが根づいている同社ですが、全役員・社員を対象に、多様性を認めあう風土を醸成する研修などを通して、ダイバーシティの推進にも積極的に取り組んでいます。
デザイナーとして女性らしい“しなやかさ”を活かし“ホスピタリティ”あふれる空間づくりに取り組むデザインセンター コミュニケーションデザイン局 コミュニケーションユニット 町田ルームの町田怜子クリエイティブディレクターと、経営企画統括部広報室の山岡礼室長にお話をうかがいました。

 女性だからと「区別」された経験はない

同社には在宅勤務制度や、自分が希望する勤務開始時刻に変更できるシフト勤務制度、時短勤務や育児休業の取得率向上をはかるためのサポートなど、働き方を選択できる制度は用意されている。しかし、「女性に特化しているというよりは、社員全員のための制度です」と町田さんは語り始めた。

デザインセンター コミュニケーションデザイン局 コミュニケーションユニット  町田ルーム クリエイティブディレクター 町田怜子さん

「入社して以来、女性として窮屈な思いをしたことはありません。先輩のママさんデザイナーたちも、子育てしながらバリバリ働いていますし、周囲もサポートしています。だから、結婚や育児といったライフイベントによる変化に対して、不安はあまり感じません。先輩方が良いお手本になってくださっているからだと思います」(町田さん)

デザイナー・プランナー部門は、女性社員が約3割を占めており、若手社員はもちろん、ママ社員含めて管理職層も増えている。町田さんの後輩にあたる女性社員たちからも、将来を不安視する声は聞こえてこないという。

経営企画統括部 広報室 室長 山岡礼さん

「パートナーの復職をサポートしたいからと、何週間かの育休を取得したり、シフト制度を活用して、お子さんの送り迎えをしている男性社員もいます。仕事と家庭の両立について人事部に相談に来るのは女性社員だけではありません。当社では男女の区別なく、誰もがそれぞれの働き方で成果をあげられるように応援しています」(山岡さん)

 女性である自分の感性を信じることの大切さ

風通しの良さがあるとはいえ、町田さんには、今まで以上に「女性の視点が尊重されるようになった」と感じるプロジェクトがあったという。それは、都内にある渋谷ヒカリエShinQs内のレストルーム「Switch Room(スイッチルーム)」のデザインを担当したときのことだ(2012年)。

それまで渋谷には女性が安心して使えるトイレが少なかった。渋谷ヒカリエにベビーカーを押したママさんが入っていくのを見て、「やった!」と思ったと町田さん

2005年に入社した町田さんは、アパレル系など商業空間のデザインを中心に仕事をしてきた。しかし、2010年に日本赤十字社の有楽町献血ルームのプロジェクトに加わった際に、ホスピタリティを大切にする空間づくりに学ぶことが多かったという。献血する際、人は少なからず緊張するので、その緊張をほぐすために柔らかい素材や形状を取り入れるなどリラックスできる空間デザインに徹したところ、献血後に具合が悪くなる人の数が減ったのだ。

空間におけるホスピタリティの重要性を再認識した町田さんの経験が買われ、会社では「これまでにない女性のためのサービス空間」をデザインするために、町田さんを中心とした女性だけのデザインチームが編成された。そのチームで手掛けたのが「Switch Room(スイッチルーム)」だ。

レストルームは商業空間に付加価値を与えるための空間だ。BGMまでオリジナルで制作するほどのこだわりに、そこまでする必要があるのかという声は少なからずあったが、会員制のラウンジやベビー休憩所まで完備した前代未聞のレストルームは、数々のデザイン賞を受賞。同社には、「女性の視点で、気持ちのいい空間を」という依頼が次々に舞い込んだ。

女性である自分自身も“本当に心地よいと感じる場所”にこだわり、エンドユーザーの女性のために具現化したデザインが評価されたことで、「男性の上長からも、今まで以上に女性の感性を尊重してもらえるようになりました」と町田さんは話す。

 女性デザイナーへのニーズは増加傾向

そんな町田さんが直近で手掛けたのが、2017年9月にオープンした「Panasonic Beauty SALON銀座」だ。このサロンはパナソニックビューティー初の基幹店で、商品体験型のサロンという位置づけだ。20代から40代の忙しい女性に「美容家電によるセルフエステ」のきっかけを提供することをコンセプトにしている。

美容家電は直接髪や肌に触れるものなので清潔感のある空間を重視しながらも、家電量販店にはないラグジュアリーさを大切にした。清掃のしやすさといったスタッフ視点も大切にという、女性ならではの気配りが光る「Panasonic Beauty SALON銀座」(RINO KOJIMA=ライツ撮影事務所)

プロモーション施設である以上は、より多くのお客様に体験してもらわなければいけないが、美容ケアを誰かに見られるという気持ちのハードルへのケアも必要だった。そこで、ストレスなく体験してもらうにための工夫を随所に施した。丹青社側のスタッフも、クライアント側のスタッフも女性が中心。町田さんと同年代の働く女性たちが集まり、「私ならこう感じる」と何度もやり取りを重ねた。

女性をターゲットにしている商品やブランドが多いというだけでなく、女性デザイナーへのニーズが増加傾向にあるのは、女性活躍の推進という社会の動きも追い風になっているのではないかと町田さんは感じている。

「私は男女で区別するのではなく、フラットに考えているからこそ、女性らしさは個人のオリジナリティとして出せばいいと思います。女性デザイナーへ依頼された仕事なら、当然ですが女性らしい視点やアイデアを存分に発揮することが強みになります。女性らしさで堂々と勝負すれば、もっと女性デザイナーは活躍できるはずです」(町田さん)

町田さんは、社員が共に成長していくために開催されている社内のアクティビティ「クリエイティブ・サロン」の事務局メンバーを務めている。本社受付ロビー目の前の象徴的なスペース「クリエイティブミーツ」を会場に使い2カ月に1回、イベントを開催。社員の自主的な活動へのサポートも積極的だという

ダイバーシティの推進が、仕事にも活かされている

本社を移転したことを機に、全社員にパソコンとスマホを支給し、クラウドを活用することで、時間や場所に捉われずに働ける体制を整えた。オンライン会議の活用などで出張の回数は減り、効率化が進んでいるという。

空間づくりをなりわいとする同社だからこそ、社員が心地よくそして意欲的に働ける空間づくりにも積極的だが、ダイバーシティの推進においても、活動領域を広げながら模索し続けているという。

例えばNPO法人ユニバーサルイベント協会と共催で開催している「ユニバーサルキャンプ in 八丈島」は、年齢や性別、障がいの有無や国籍に関係なく多様性を認めあえる人材の育成を目的とし、他企業や団体など様々な人たちと八丈島に泊まりがけで交流を行っている。

また2017年から、全役員・社員を対象に実施しているダイバーシティ研修では、オフィス内を車いすで移動したり、視覚障がい者のサポート体験を行ったりしているが、これはユニバーサルデザインを学ぶ場にもなっているのはもちろんのこと、多様性を理解し、活かしあう社内風土醸成の機会でもある。

八丈島で2泊3日し、キャンプという少し不便な環境の中で、互いに協力し合うことを学ぶ「ユニバーサルキャンプ in 八丈島」(写真)や、多様な働き方を共に考えるダイバーシティ研修など、社員全員が経験できるよう工夫している

「さまざまな人が集う空間をつくり、そこで過ごす時間の価値をあげるなりわいだからこそ、感度の高い人材の育成が要です。だからこそ男女関係なく成長し続ける場を提供して、社員をサポートしたいという思いは強くあります。しかしダイバーシティを本当の意味で定着させるには時間がかかるでしょう。継続していくしかないですし、いかに継続させるかが課題だと思っています」(山岡さん)

(Report 吉川ゆこ)

株式会社丹青社

設立:1959(昭和34)年12月25日
本社:〒108-8220 東京都港区港南1-2-70 品川シーズンテラス19F
連結従業員数:1,157名(2018年1月末現在)
事業内容:商業空間・パブリック空間・ホスピタリティ空間・文化空間・ビジネス空間・イベント空間の調査・企画、デザイン・設計、制作・施工、運営
https://www.tanseisha.co.jp/