Special Reprt

第10回

女性活躍を主眼に取組みつつ、

次の課題は社員の4割を占める外国人社員への対応

アサヒビール(東京・墨田区)

アサヒビールが育児休職の制度などを皮切りに、女性たちが働きやすい環境整備に取り組み始めたのは1980年代後半のことです。ときを経て2011年に純粋持株会社としてアサヒグループホールディングスが誕生し、2014年になると、グループ全体をまとめるグループダイバーシティ推進室が設置(現在はダイバーシティ推進グループに改訂)され、新たな体制で活動を進めることになりました。
ダイバーシティ推進グループでは、性別や国籍の違い、障害の有無に関わらず全社員が活躍できる環境づくりに取り組んでいます。そうしたマネジメント面の動きと、実際に働く女性社員の様子をうかがおうと金色のビールジョッキの形が特長的なアサヒグループ本社ビルを訪ねました。お話をうかがったのは、グループのダイバーシティマネジメントを担当する光延祐介さんと林越智子さん。そして活躍する女性社員の一人、内崎亜希子さんです。
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今年3月には女性取締役が2人誕生。女性活躍推進の一つの成果

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人事部門 マネージャー ダイバーシティ推進グループ
光延祐介さん
アサヒグループは、2015年度の「なでしこ銘柄」に選定されている。経済産業省と東京証券取引所が共同で女性活躍推進に優れた上場企業を選ぶものだ。そこで、まずダイバーシティ推進室のお2人にうかがった。アサヒグループが女性活躍推進で取り組んでいるのはどんなことなのだろうか。「ダイバーシティ推進グループでは、アサヒグループ全体における多様性の実現をめざして、従業員が年齢や性別、国籍などに関係なく活躍できる企業風土づくりを推進しています。その中でも女性活躍推進は大きな取り組みの一つになりますね。例えばキャリア支援の取り組みとして、各グループ会社のラインマネージャークラス以上の女性社員を対象とする『女性リーダー研修』や、異業種の女性社員と交流してリーダーシップを学ぶ『女性のためのビジネスリーダーシップ塾』、先輩ワーキングマザーのキャリアの軌跡を聞く『ワーキングマザー座談会』などを定期開催しています。グループ社内では、今年の3月にも女性取締役が2名誕生して、研修などで学んだことが女性のキャリアプランや人員配置に結びついた結果だと実感しています」
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女性リーダー研修 各グループ会社のラインマネージャークラス以上の女性社員を対象とする
「女性リーダー研修」。このほか異業種の女性社員と交流してリーダーシップを学ぶ『女性の
ためのビジネスリーダーシップ塾』、先輩ワーキングマザーのキャリアの軌跡を聞く『ワーキ
ングマザー座談会』などキャリアを磨く機会が多数設けられている

各部署の上長が率先して使うことで、
子育て女性も、男性も女性も制度が使いやすくなる

キャリア支援の目標となる数字が、国内の主要グループ会社で設定した女性役員登用と女性管理職比率だ。2015年12月の時点でアサヒグループホールディングスの女性管理職比率は13.6%。2021年はこの比率を20%に引き上げたいと考えている。女性役員登用の目標設定は数値化するのが難しそうだ。

「実現不可能な数値を設定するのではなく、実態に合った目標を立てて着実な女性活躍の推進を狙っています。この支援策としての、たとえば在宅勤務やフレックス制度なども取り入れています。各部署の上長が率先して使うことで、子育てをしている女性も、そうではない女性も、男性たちも制度を使いやすくなるわけで、そういう取り組みも大切だと思います」(光延さん)
このような女性が活躍できる風土をめざすには、そもそもの母集団を形成する採用段階から考えていく必要がある。
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人事部門 副主任  ダイバーシティ推進グループ
林越智子さん

「新卒採用では、グループ各社の企業イメージごとに志望する学生さんの層も異なっています。年度によっても変化しますが、例えばアサヒビールはビールのイメージが強いため、男性の方の応募が比較的多い一方でアサヒ飲料やアサヒグループ食品は女性の応募者が多い傾向があります。弊社は女性活躍を大きなテーマに取り組んでいますが、あくまで働く人たちの多様性を大切にしていこうというのが大前提であり、個人としてそれぞれの能力を活かしていただきたいと考えています」

女性ならではの感性を活かし、魅力的な企画・提案をしたい

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このあたりで内崎さんにも話に加わってもらった。2002年にアサヒグループ入社。現在は営業本部業務用統括部のフードサービス室のシニアプランナーとして活躍する。内崎さんは職場結婚。ご主人も同じ社内で働いており、2人のお子さんがいる。女性社員の多彩な活躍ぶりの一端を語ってもらおう。
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 営業本部 業務用統括部
フードサービスサポート室 シニアプランナー
内崎亜希子さん
「この会社を選んだのは食べること、飲むことが大好きだったので(笑)、飲食を通して人を幸せにする仕事をしたいと思ったからですね。入社して仙台の営業担当となり、あるとき担当エリアの酒販店さんにうかがおうと車で出かけたのですが、私は地図を読むのも車の運転も苦手。そこで忘れられないトラブルが起きてしまいました。車が縁石に乗り上げてタイヤがパンク。動きが取れなくなってしまい、周りは暗くなり始めどうしようかと慌てふためいて会社に電話をすると『体は大丈夫か?』と、まず私のことを心配してくれたのでホッとして、ありがたかったですね。手配してもらったレッカー車の助手席で意気消沈しながら車のリース会社に向かうと、そこで同期の男性社員が待っていてくれて、『大丈夫か』と肩を叩いてくれました」
入社したての大事件。内崎さんは上司や同僚の温かさに救われたと入社当時の大事件を語る。当時はまだ、採用数からして男性の比率が圧倒的に大きく、内崎さんのような営業ウーマンは数えるほどだったが、その後はしだいに営業として実績を上げる女性社員も増えてきた。内崎さんは現在、浅草の本社オフィスで居酒屋などの飲食店のドリンクメニューの企画開発に携わっている。
「いまの部署は50人を超える大所帯ですが、その中で女性はたったの5人。でもやりづらさとかはまったくありません。私はカクテルやドリンクの企画・開発・提案の業務を担当しています。飲食店様のニーズを探り、当社の製品であるビールやリキュール、ウィスキーなどを使って付加価値のある新しいカクテルを考える仕事です。最近ではハロウィーンに関連したメニューの企画を担当しました。飲食店様も女性のお客様を増やしていきたいと考えているところが多いので、ターゲットと同じ目線や感覚で企画できることが私の強みではないでしょうか」(内崎さん)

自分のメッセージをしっかりと上司に伝えておくことが後々役に立つ

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メニュー開発。新たなメニュー開発の中にも女性ならではの感覚を活かしたいと、「ハロウイン」など季節に合わせた細やかなメニューを提案する内崎さん。いざ飲食店へ提案の前にはチーム内で「ブレスト1000本ノック」で気合を入れる

情報収集のために夜間に飲食店を回ることもあるという内崎さん。子育てと仕事の両立については、どのように考えているのだろうか。
「まるで毎日ダッシュをしているようです。朝は主人が娘を保育園に送り、夕方のお迎えは私です。17時半に退社し、そのまま保育園に向かいます。主人と私でお互いの仕事の予定を3か月先まで擦り合わせながら、夜に飲食店に出向く仕事がある時は事前にスケジュール調整を行なっています。月に数回フレックス制度を利用し、必要があれば在宅勤務を利用することもありますね。子どもの学校行事などがあれば、半日だけ家で仕事をしたり時間を有効に使うことができています」(内崎さん)
夫婦での協力と、社内の制度を利用し、安定したワークライフバランスを保っている内崎さんは、女性活躍のロールモデルの一人といえる。自分自身が築いてきたキャリアを振り返って、ご本人は「周囲の人の理解と協力のおかげ」と語る。
「働き続けるうちに、自分が会社の中でこういうふうにやっていきたい、というイメージを思い描くようになり、そういう自分の希望を上司や周囲の人に伝えてきたのが今に繋がったのだと思っています。育児休暇を2回取得して、希望してまた同じ部署に戻ってくることができました。女性は自分のキャリアが途中で分断されることもあるかもしれませんが、自分のメッセージをしっかりと発信しておくことにより、思い描くビジョンの実現に近づけるのではと思います。また自分の経験から、後輩には『結婚する時は、協力してくれるダンナさんを選んだほうがいいよ』と伝えています(笑)。働き続けたいと思うならば、それを理解してくれる協力者が身近にいることは、とても大切だと思うからです」(内崎さん)

次はグローバル対応。まず社内コミュニケーションに取り組む

最後に、今後のダイバーシティ推進における課題についてお聞きした。
「現在は女性の活躍推進が大きな課題ととらえていますが、それと同時に外国人社員への対応も大事です。現在グローバルに事業を展開しており、全社員の約4割が外国人となりました。社内の英語表記を当たり前にしたり、コミュニケーションの面でも、男性、女性、外国人などそれぞれの強みや価値を活かせるような人員配置やチームの組み合わせを考え、ビジネスに繋げていきたいと考えています」(光延さん)
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(Report 佐藤愛美)

アサヒグループホールディングス
設立:1949(昭和24)年9月1日
本部:〒130-8602 東京都墨田区吾妻橋1-23-1
連結従業員数:22,194名(2015年12月現在)
主なグループ会社:
アサヒビール、アサヒ飲料、アサヒグループ食品
http://www.asahigroup-holdings.com/company/group/