Special Reprt

第11回

きっかけは会社が直面した大きな危機。

新しい働き方が女性社員の声から生れた

りそなホールディングス(東京・江東区)

従業員一人ひとりが働きがいや働きやすさを実感できる組織作りを目指し「人づくり」を進めているりそなホールディングス

同社でダイバーシティの取り組みが本格化したのは2005年頃のこと。2011年6月にはダイバーシティ推進室が発足し、「現場が主役」「自律性」「多様性」をキーワードに従業員全員がいきいきと働き、実力を最大限発揮できる職場づくりに取り組んできました。

今回お話を聞かせていただいたのは、2016年の4月よりダイバーシティ推進室長に就任した杉本仁美さん。営業や人事部門など様々な舞台で活躍してきた杉本さんに、女性活躍推進の現状について伺いました。

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女性社員の目線で、女性向けの商品企画を行う「わたしの力プロジェクト」。健康年齢で保険料が決まる生命保険のプランなど、
女性のアイデアを活かした商品が誕生している。

常識にとらわれず新しいことをどんどんやっていこう

2003年、りそなグループに公的資金が注入され、実質国有化されたことで生じた金融不安———通称「りそなショック」が発生した。早期退職制度の実施や給与の大幅カットなどにより、想定以上の男性社員が退職することとなった。りそなホールディングスで女性活躍の取り組みがスタートしたのはそんな苦境のタイミングだった。多くの男性社員が辞めていく中で、残された女性社員やパートナー社員(パートタイマー)に活躍してもらおうと、ダイバーシティの取り組みが始まったのである。

「りそなショック以降、従業員には大きな変革意識が根付きました。銀行は『金融サービス業』であるという発想のもと、様々な改革が進められていきました。オペレーション改革やサービス改革、そして人事制度改定などがトップダウンやボトムアップで起こり、社外の視点も取り入れながら、これまでの常識に囚われない新しいことをどんどんやっていこうという風土が出来上がりました」

男性社会の体質が色濃く残る金融業界の中でも、女性活躍推進に特に力を入れている同社。窓口だけでなく、様々な現場で女性が活躍している「現在は、パートナー社員も含め、従業員の6割が女性です。女性管理職も増え、女性が活躍しやすい職場に変わってきました。一般的に銀行の女性は窓口にだけいるイメージが強いと思うのですが、近年は融資業務や個人営業を担っている女性社員も増えています。一方で、法人営業においてはまだまだ女性の数が少ないので、もっと育てていかないといけません」

性差ではなく、「人間力」で男性社会の現場に立つ

お客様へ提案をする時に重要なのは、女性であるか男性であるかよりも、提案力とコンサルティング力であると語る杉本さん。
丁寧にお客様との信頼関係を築くことでお客様自身の反応も柔らかいものに変化してきている。

1994年に入社後、融資業務を主体的に勉強していた杉本さん。2ヶ店目に勤務していた時に初めて法人営業を経験した。

「当時は、お客さまから『女性が担当なのか』と言われるような時代でしたね。現在も土地柄によってはそのように言われてしまう可能性もありますが、以前に比べると一般企業でも女性の社長が増えてきましたし、銀行の担当者が女性であっても違和感のない時代になってきたと思います。

 

私自身は自分が男性とか女性とかあまり気にしたことがありません。勉強したバックグラウンドや、駆け出しの頃は知識がないところも男性と一緒です。それよりも、接し方やコミュニケーション、人間力のような部分を大切にし、お客さまとの信頼関係を築いていくことで、『女性なの?』という反応は次第になくなってくると思います」

店舗での営業を経験した杉本さんは、その後、人事部門、本部の審査部門、営業店のオフィサー(副支店長)など様々なポジションで活躍し、昨年の春から人事部門の中のダイバーシティ推進室へ。女性活躍推進に加え、中高年層のミドル社員、障がい者、LGBTなど、従業員の多様性を尊重し、働きやすい会社づくりを目指している。

女性管理職比率は24%。次の課題は経営職層への登用

ダイバーシティ推進室が掲げる2020年までの女性ライン管理職比率(部下ありの管理職比率)の目標は30%。現在は24%まで到達している。

「社内を見てみると、女性が管理職に就くことへの壁はだんだん低くなっていると思います。抵抗感を持っている人も減ってきました。しかし、経営職層への登用比率はまだ5%にも達しておらず、課題が残っています。マネージャークラスまでは何となくイメージが持てても、その上の層に就任するのはハードルが高いと思っている女性社員が多いようです。知識やスキルをつけて自信に結びつけることができるように、経験する業務内容から見直しが必要だと思っています。女性支店長たちはとても楽しそうに仕事をしています。ロールモデルをもっと見せられるようにしていきたいです」

同社では2005年4月に、女性従業員の声を経営に反映させることを目的とした経営直轄の諮問機関「りそなウーマンズカウンシル」が発足した。


様々なキャリアを持った女性社員が集まり、意見を交わし合うことで、仕事の垣根を越えた信頼関係ができあがる。
時には先輩からアドバイスを貰い、自分の生き方を考える場にもなっている。

「ウーマンズカウンシルもそなショックが起こった後に立ち上がりました。今はグループ会社も含めて総勢20名程で活動しています。支店長クラスから4、5年目の社員までキャリアも様々なメンバーが集まり、月に一度のミーティングが行われ、懇親会も開催されています。」

女性が働きやすい職場づくりやキャリア形成のサポートなどを経営に提言し、これまでに、育児との両立支援として「プレママセミナー」や「復職支援セミナー」の実施、育児関連制度の拡充などを実現してきた。

ウーマンズカウンシルの立ち上げに携わり、自身も一期生として活動していた杉本さんは、当時のことをこのように振り返る。

「ウーマンズカウンシルの活動を繰り返していくうちに、本音で言い合える仲間ができます。職位もバラバラなので、仕事やプライベートに関する部分でアドバイスを貰ったり、悩み相談ができる関係性も生まれました。1年、2年と活動していくとメンバーの結束力も高まります。最終的には役員に提言する発表会を行うのですが、自分たちの活動が目に見える成果として実現した時は、大きな達成感を感じました。実りのある活動だと思います。10年以上たった今でも当時のメンバーとの交流が続いています。」

2012年には「ダイバーシティ経営企業100選」にも選ばれた、りそ
なホールディングス。女性やミドル層、障害者など、多様な人材の
活用に期待が高まる。


業務範囲や勤務時間を限定しながら正社員として活躍できる、新たな働き方

結婚や出産、育児などライフステージの変化を理由に退職を選ぶ女性は多い。しかし、同社では結婚や育児を理由に退職する女性社員はわずか1.1%。さらに女性社員の4人に1人がワーキングマザーとして活躍しており、その比率は年々増え続けている。これまでの様々な取組みの成果ではあるが、更なる柔軟な働き方を追求し、育児中の女性がより自由に働き方を選択することもできる「スマート社員」という独自の制度を新たに導入した。

「2015年10月に導入したスマート社員は、『業務範囲』もしくは『勤務時間』を限定した正社員です。社員とパートナー社員の中間的な位置づけで、新たな職種を作りました。業務範囲を限定する場合、本部の企画業務や営業店の渉外業務といった選択ができます。これまでは、パートナー社員から正社員になると、それまで経験したことがない業務を含めて担当する可能性もあり、心理面で社員登用のハードルはとても高いものでした。しかし、業務をある程度限定した働き方ができるスマート社員を選択することで、そのハードルは低くなります。勤務時間を限定する場合はワークライフバランスを考えながら、「ライフ」のほうに比重を置いた働き方の選択が可能となります。現在、仕事と育児の両立を目的に、転換制度を利用してスマート社員として勤務している方が多いですね」

社内で働き方に対する意識改革を進めていくためにも、育児や介護などのライフイベントに直面している従業員とその上司に対して、制度について分りやすい説明をしていくことが必要と語る杉本さん。制度が利用しやすい職場環境づくりに加え、「ライフ」の部分に比重を置きながらも、ステップアップが可能であることの理解と、その意識を高めていくことが今後の課題である。

実力ある女性にチャンスを与えるためには

最後に、女性活躍推進の取り組みにおいて、ダイバーシティ推進室が大切にしている姿勢について伺った。

「弊社がスピード感を持って女性活躍推進に取り組めたのは、りそなショックという危機があったからだと考えています。他の施策に関してもそうですが『やらなきゃいけないよね』という意識を持ちつつ少しずつ対処していても、進まないのが現実です。女性たちの登用に関しても、『この人大丈夫かな』と慎重になりすぎると進まないんです。そのため、大胆に取り組んでいくことが大切だと考えています。管理職になりたいかどうかコンセンサスを取りながら進めていくと『彼女はまだマネージャーになりたくないみたいだよ』という段階で止まり、登用を諦めることになりますが、これでは本末転倒です。本当は実力がある人、やってみたらできる人のチャンスを奪ってしまうということは多々あるのです。そういったことを避けるためにも、思い切って登用することも必要だと感じています」

(Report 佐藤愛美)

<株式会社りそなホールディングス>

設立:2001年12月12日

本社:東京本社
東京都江東区木場1丁目5番65号 深川ギャザリア W2棟

連結子会社従業員数:16,674人(2016年3月末現在)