第16回
ワーキングマザーたちのリアルな声を集めて
利用しやすい育児支援制度を導入
森永乳業(東京・港区)
近年、「人々の健康」というテーマに対する注目が高まっています。乳製品の総合メーカーとして名高い森永乳業株式会社も、様々な健康食品やサプリメントを扱うことで人びとの健康促進に貢献しています。
同社は2015年に「森永乳業健康宣言」を発表し、社員自らも心身ともに健康であることを目標として掲げました。また、同時に働く人々のワーク・ライフ・バランス推進の一環として子育て支援策の充実にも一層の力を入れることになりました。
今回は、東京・JR田町駅に隣接する森永乳業の本社にお邪魔し、森永乳業の女性活躍推進への取り組みについてお話を伺いました。
森永乳業では、産休や育休のほか、「つわり休暇」や「学校行事休暇」など、妊娠・出産・育児における様々なシーンを想定した育児支援制度が用意されている。また、不妊治療を理由とした積立年次休暇など、当事者のリアルな声に基づく制度もある。これらの制度の利用実態について、人財部人財課の永安さんと川口さんにお聞きした。
「女性活躍のため、という視点もあるのですが、社員全体のワーク・ライフ・バランスを整える一環として、育児支援制度の充実が進められてきました。過去には社内のワーキングマザーたちを集めて意見を聞いたこともあります。学校行事の時に休みたい、短時間勤務をしたいという声はその時に出てきたものです。私も学校行事休暇を使い、わが子の入学式や卒業式に出席しました。弊社の育児支援策の大きな特徴は、産後に使用できる制度の期間がすべて4月末に設定されていることです。年度末の3月末までを期間の区切りとして制定するのが一般的ですが、弊社では、子どもの学年が変わって1か月間は“ならし”の期間にしたいという要望があり、制度に反映されました。一方で、不妊治療を理由とする休暇の取得も認められているのですが、デリケートな内容であるため使用を申し出る社員が少ないのが現状ですね」(永安)
同社では1月より在宅勤務制度のトライアル期間がスタート。性別やライフスタイルに関係なく、業務に差し支えのない部門で働く人であれば利用することができ、これまでに56名が制度を利用して在宅勤務を試みたそうだ。今後は本番運用に向けて本格的な取り組みが為されていくとのこと。
森永乳業では女性社員のロールモデルを築き、キャリアの可能性を広げていくことを目的とした様々な研修が行われている。人財課のリーダーを務める川口さんは、「最初は不満の声が出るのではないかと思ったが……」と正直な感想を語った。
「弊社では女性リーダー研修が2012年より毎年行われています。今年で6回目になりますね。以前まではリーダー以上の役職の人を対象とした研修だったのですが、今年からは対象を少し広げました。対象者を広げることにより、早期からマネジメントやリーダーシップを学ぶことができます。女性だけを対象とした研修なので、最初は不満の声が出るのでは……?と懸念していたのですが、意外にも不満は出ませんでしたね。それどころか『研修はいつあるんですか?』と期待の声が聞かれます」(川口)
「他の部署とあまり関わりがない女性社員にとっては、他の部署の方の声を聞くだけでも大きな刺激となるようです。また、多様な部下をどう育成していくかという課題に立ち向かうため、マネジメント研修も行っています。社員の多様性を尊重するということは、多様な部下を指導する難しさも同時に生まれます。そういった課題に対するアプローチは、女性社員に特化せず今後も取り組んでいくべきだと考えています」(永安)
ここで、現場で活躍する女性社員の方にもお話をお聞きしてみた。通信販売グループ長を務める近藤さんは、もともとは研究所の出身。研究者として森永乳業に入職し、ビフィズス菌や乳酸菌の研究を行ってきたという。二児の母であり、短時間勤務制度を活用しながら、育児と仕事を両立している近藤さんの活躍について伺った。
「私は森永乳業の研究所で、ヨーグルトの開発やビフィズス菌や乳酸菌の研究をしていました。長年勤めた研究所から、現在の通信販売グループに異動をした理由は、私が発見した『ビフィズス菌B-3』という菌を世の中に広めたかったからなんです。このB-3は、さまざまな働きが研究されていて、とても体に良い菌なんです。特許も取得したのですが、研究所で菌の素晴らしさを認めてもらうために論文を書いたり、学会発表をしていましたが、一般のお客様まで紹介しにくいというのが現状でした。それならば自分で何とかするしかないと考え、B-3を商品化したいので営業の仕事をさせてくださいと会社に申し出たのです。2002年に菌を発見し、13年かけて2015年にやっと「森永ビースリー」の商品化が実現しました。なかなか商品化することができず、悔しい思いもたくさんしましたが、B-3の素晴らしさを多くの人に伝えていけるのは自分しかいないだろうと信じ、諦めずにやってきました」(近藤)
長い年月をかけて市場に送り出すことに成功した「森永ビースリー」に対し、近藤さんは「まるで第三子のようです」と語る。育児と仕事の両立に関しては、どのように取り組んでいるのだろうか。
「現在は上の子が小学2年生、下の子が2歳です。下の子を出産した直後、ちょうどビースリーも商品化されて世の中に出ようという時期だったので、育休をとらずにすぐに職場復帰しました。第二子と第三子が同時に生まれたかんじですね(笑)。育児と仕事をうまく両立するポイントは、便利な家電を使ったり家事代行サービスを使ったりして、自分の手間を省き時間を作ることです。それから、家族との協力も大切ですね。我が家では主人が朝の支度を担当し、夜の家事や宿題のサポート、子どもの寝かしつけなどは私がやっています。21時に子どもと就寝し、早朝に起きて通信教育や仕事に関する勉強をして、有意義な時間を作っています。部下たちにも自分の経験からアドバイスすることもありますが、私のようなライフスタイルが合う人、合わない人、様々な考えがあると思うので、ワーク・ライフ・バランスを考えていく上でのひとつの参考にしてもらえたらと考えています」(近藤)
最後に、女性活躍の視点から、人財課の今後の課題について聞いてみた。
「弊社はあえて女性マネジメントの目標値を定めていないんです。現在は、30歳前後の社員が男女問わず多く、女性に限定した目標値を立てることで可能性を狭めてしまうという思いがあります。しかし、将来的には目標値を設定することが必要になってくるかもしれません。立てるとしても、長期的なスパンで取り組んでいきたいですね。また、チームマネジメントも現在の大きな課題のひとつです。営業や研究職など、個々の仕事になりがちなので、チームとしてどのように仕事に取り組んでいくかという部分が難しい課題になっています」(永安)
「ダイバーシティというと、どうしても、女性、LGBT、国籍などにフォーカスしてしまいますが、同じ性別や年齢であっても生き方や考え方は人それぞれです。現在は、ひとくくりにして支援制度に当てはめているところもあるので、カテゴライズをする前に個人をよく見て、社員一人ひとりが能力を発揮できるようにしたいですね。そうすれば、チームの力も強くなっていくと思います」(川口)
(Report 佐藤愛美)
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