Special Reprt

第2回

チーム約150名を率いる情熱リーダーが

3年かけて実現したのは「情熱接客」

三越伊勢丹(東京・新宿区)

女性が活躍する会社として必ず顔を出すのが㈱三越伊勢丹ホールディングスです。女性活躍推進に優れた企業として「ダイバーシティ経営企業100選」(経済産業省)に選ばれ、「女性活躍パワーアップ大賞」(日本生産性本部)を受賞するほか、東洋経済新報社の「女性が働きやすい会社ランキング」でも1位にランク。女性の活躍、育児・介護、働きやすさの3分野で並みいる優良企業の頂点に立ちました。そんな企業の評判を支えているのはいうまでもなく現場でがんばる女性たちです。なぜ、この会社では女性たちが活躍できるのか。三越銀座店の婦人服お買場のセールスマネージャー・大原悠子さんからお話を聞くことにしました。
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大原悠子さんをリーダーとして、2015年度の「職場の約束」運動で最優秀賞を獲得した際の発表チーム・メンバー。テーマに掲げた「情熱接客」の言葉通り、各人が情熱をこめて接客を実践した。

三越伊勢丹の女性管理職比率は21.5%。そして、新規管理職に登用された女性比率は3年平均で38.6%。性別や学歴にとらわれず、意欲がある社員に対して積極的に昇格試験にチャレンジするよう促しており、結果、女性の受験者数が増加。短大・高校卒の合格者も年々増加している。また、従業員における女性比率が約7割であることから、働く環境の整備にも注力。法定を上回る育児関連諸制度を設けるとともに、人事部に育児短時間勤務者による専任担当を設置し、ワーキングマザーセミナーや復職準備説明会等、育児休業からのスムーズな復職を支援しているほか、月10日まではフルタイム勤務を申請できる「育児短時間勤務者の一時的時間延長制度」等、早期にフルタイム勤務に復帰するための支援も強化している。ワーク・ライフ・バランスのとれた、やりがいのある職場で「働きやすさ」を実現してきた。こうした努力が実を結んでのトップ評価である。

社員・取り組み先、およそ150名を率いる

さて数字はともかく、実際の職場はどうなのだろう。三越伊勢丹グループの企業理念推進の取組である「職場の約束」運動で2015年度の最優秀賞を獲得したチームのリーダー、大原悠子さんにお話しをうかがった。

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大原悠子さんは三越銀座店の3階でTOKYOモード のセールスマネージャー。2015年度の「職場の約束」運動で最優秀賞に輝いたチームリーダー。

大原さんは、三越銀座店の3階、婦人服フロアに展開するTOKYOモードのセールスマネージャーであり、社員・お取組先販売員(商品取引先)約150名のトップでもある。
「三越伊勢丹グループでは、企業理念を共有し、行動によって理解を深める活動として、各お買い場(売り場ではなく、お客様の目線からこう呼んでいる)でテーマを掲げ、職場の約束運動という全社運動を実施しています。2015年度は、「情熱接客」というテーマで、年間を通じてサービス向上の一環となる取り組みを全員参加で実践した私たちのチームが、1278チームの中から最優秀賞という評価をいただきました」。

こうして「情熱接客」にたどり着いた。2015年度の「職場の約束」運動の全社テーマは「this is japan.」だった。「this is japan.」とは、2015年よりスタートした三越伊勢丹グループの企業メッセージで、企業活動(=企業理念の実践)の方向性をより明確に示したことばである。これからの未来に向かって、あらたな百貨店をつくりあげていく「心構え」を表す言葉として発信された。大原さんはまず、メンバーが思う「this is japan.」の接客とはどんなものか。全員に聞いて回り、一人ひとりが真剣にいろんなことを考えていることをあらためて知った。そしてメンバーと話し合い、「情熱接客」というテーマにたどり着く。
「どこでもモノが買える今、わざわざ百貨店に来てくださるお客様に、私たちは何ができるだろうか。お客様はもっと心を響き合わせたいのではないか、人の情熱にふれながらお買い物を楽しみたいのではないか。そんなディスカッションの中から、思いやり接客、全力接客といった、いろんな言葉が出てきました。これを多数決で選ぶのではなく、一人ひとりの想いを大切に、すべてを包含する言葉を話し合いで見つけていきました。情熱接客というテーマは、メンバーみんなの考えから生まれた言葉です」。

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日頃の現場でのスタッフとのコミュニケーションが「情熱接客」というチームの目標(テーマ)を支えている。情報や意見の交換でそれぞれがやるべきことを共有しているから、それが着実な成果につながっていく。

大原さんのチームがめざした「情熱接客」とはどんなものか。
「特別な販売員が何人かいるのではなく、全員が同じ方向に向かい、同じレベルの接客ができるようになるために、何をやるかをマネージャーの私が勝手に決めず、メンバーから出た意見を吸い上げて採用しました。コーディネイトの勉強会をはじめ、デザイナーを訪ね、想いを直接ヒアリングしたり、お買い場の中にデザイナーの情熱を発信する場所を作ったり、さまざまなアクションによって私たちの情熱をわかりやすく伝える工夫を重ねました」。

1年間の成果ではなく3年間かけた成果

メンバー全員がその意味を理解し、積極的に参加してくれたのはもちろんだが、その取り組みはお客様にも伝わり、数字にも表れた。そういう一連の成果が認められての最優秀賞受賞となった。
「3年前に私が担当になった当初は、職場の約束運動への取り組みが盛んではありませんでした。職場の約束運動ってそもそも何?という説明から始めました。そんなメンバーを巻き込みながら初年度は部門賞、2年目は優秀賞をいただき、社内でも評価されるようになりました。そしてお客様にも喜ばれている、そういう実感を共有できるようになって、今ではメンバーのほうから率先して、自発的に活動を提案してくれるようになりました。その意味では、最優秀賞も1年間の成果ではなく、3年間をかけてたどり着いたひとつの成果だと感じています」。

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「職場の約束」運動2015年度の表彰式。3年前の着任当時は、チーム内の浸透率が低く、「職場の約束」ってナニ?というところから始まった活動は、部門賞、優秀賞、そして最優秀賞と確実な歩みを続け、職場とスタッフを見違えるように変えた。

配慮はあってもヒイキはしない

百貨店業態の三越伊勢丹にはもともと女性社員が多い。正社員で見ると、2016年4月現在で男性2645人に対して女性2800人とほぼ半数を女性が占めている。女性が多い会社は、女性にとって働きやすい環境を整備することで組織が安定かつ円滑になるものだ。三越伊勢丹グループでは、グループ人事ビジョンとして「働く従業員が持てる力を最大限に引出し、伸ばしていける体制づくり」の実現に向け、性別や雇用形態に関わらず、すべての従業員が活躍できる基盤の構築を進め、多様な人材が能力を発揮する環境づくりを進めている。その取り組みは、先にあげた経済産業省による「平成26年度 ダイバーシティ経営企業100選」の選出につながっている。
「女性であっても男性と同様にやらなくてはいけない仕事はありますが、女性だからやらなくていい仕事はありません。力仕事もそう。あえて男女の差をつけずに適任者に任せる。女性も働きやすいという環境は、性差をつけない。男女の差がないことにつながっていると個人的に思っています」。

三越伊勢丹ならではの人事施策と成果には下記のようなものがある。
○年間1,000名のキャリア面談の実施で社員転換や昇格試験にチャレンジする女性が増加。
○登用・昇格の公平な機会があるのでチャレンジする従業員が増加。
○メイト社員(領域・勤務地限定社員)から正社員への転換は年々増加(累計約 500名)し、7名が管理職に昇格。
○管理職昇格者の約4割が女性(過去3年平均)、2016年度は女性執行役員3名、女性部長職33名、女性マネージャー職 540名を数え、2012 年以降毎年増加。
「私の周りにも育児勤務の方がたくさんいます。結婚したから辞めるという人は私の周りでは非常に少ないですね。結婚してからも、働きたいと思える魅力が会社にあるからでしょうか。出産後も短縮勤務が可能で、働きやすさを実感できる環境です」。

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接客スキルの向上はもちろん、商品のディスプレイやお買い場の演出なども全員で相談しながら実践を心掛けている。そんな創意工夫を重ねることでお買い物をされるお客様に楽しげな表情が浮かんでくる。

実は男性も女性も活躍している会社

「女性が活躍する会社」というテーマで書くため女性の活躍にフォーカスしているが、三越伊勢丹の魅力は性別によらず、人材がのびのびと活躍している会社という印象がある。
「女性も男性も同じように活躍している職場です。あこがれの上司や先輩は?と尋ねられたら、すぐに思い浮かぶ方が何人もいます。バイヤー、マネージャー、それぞれに素敵な人たちばかりです。共通しているのはエネルギッシュ。立場や役職が違っても、何に対しても前向きにチャレンジしていて、楽しく仕事に取り組み、自分の仕事を誇りに思っています」。
大原悠子
三越銀座店婦人子供特選宝飾営業部
TOKYOモード セールスマネージャー
2003年入社。伊勢丹新宿本店に10年勤務の後、2013年4月から三越銀座店に勤務。入社8年目にセールスマネージャーに昇格

※取材ご希望がありましたらご遠慮なくお寄せください。

(Report 児玉元秀)

株式会社三越伊勢丹
創業:三越 1673年 伊勢丹 1886年
事業内容:百貨店業
本店所在地:東京都新宿区新宿三丁目14番1号
主要店舗:伊勢丹6店舗(新宿本店、立川店、松戸店、浦和店、相模原店、府中店)、三越5店舗(日本橋本店・銀座店・千葉店・恵比寿店・多摩センター店)