第9回
エリアマネジャーの女性比率34%。
どうやったら50%に引き上げられるか
ユニクロ(東京・港区)
東京・赤坂。風に揺れる木々の緑が目にまぶしい、ここは都会らしさと自然が溶け合った複合都市、東京ミッドタウン・タワーです。公園を抜け、ガラス張りの明るいエントランスからエスカレータを下ると、そこはユニクロの店内。赤いネックストラップを身に着けた店舗スタッフたちが、訪れる人たちを元気なあいさつと笑顔で出迎えてくれます。「女性が活躍する会社」、数えて9回目は、千葉県柏地区でユニクロ店舗を統括する、営業部スーパーバイザーの横山 和さんにお話を伺おうと、このビルの中にある東京本部のオフィスを訪れました。
2015年9月現在、ユニクロを展開するファーストリテイリンググループの役員を含む女性管理職比率は約23%。エリアマネジャーだけに限ると女性比率34%と高い水準にある。「2020年までに管理職に占める女性の割合を30%まで高める」という政府目標の達成は、この会社の場合、射程圏内に入っているといえるだろう。
しかし、従業員の半数以上が女性というユニクロとしては、女性の管理職はもっと増やせるはずだと考えている。そのため、営業部ではエリアマネジャーの女性比率を50%まで引き上げるという目標を持ち、女性活躍推進室を中心に活動を展開している。
横山さんがユニクロで働き始めたのは大学3年生のときだ。アルバイトとしての入社だった。店舗のみんなと力をあわせ、ひとつの目標に向かって仕事をすることは本当に楽しかった。そして目標を達成したときの喜びは格別だった。将来は教師になろうと、教員免許を取得していた横山さんだったが、ユニクロで先輩社員の活き活きと働く様子を見ているうちに、もっとここで働きたいという思いがしだいに強くなった。こうして、大学卒業と同時に正社員としてユニクロに入社することになる。
入社後は半年で店長登用試験に合格し、複数店舗での店長を経験したあと、2012年に結婚。その後ご主人の応援もあって、2013年9月には千葉県内の千葉中央エリアを担当するスーパーバイザー(エリアマネジャー)に昇格した。
その翌年に妊娠が分かり、産前産後休業、育児休業を取得する。その後、翌2015年5月に仕事復帰をする。復帰から1年間は慣れない育児と仕事の両立に奔走しながら店長代理・店長を務め、2016年6月からは再びスーパーバイザーとして千葉県柏地域の店舗管理を担当することになった。これが横山さんのこれまでの歩みだ。
ユニクロでは、半年ごとに異動があるのが一般的だ。店長となった横山さんも半年ごとに、一歩一歩、より規模の大きな店舗へ異動しながら実力をつけてきた。一見すると順風満帆なキャリアを築いてきたかに見える横山さんだが、ご本人の感覚は少し違うようだ。
「学生時代には店長代行としてお客様のご不満への対応やお金の管理も任せてもらい、忙しいながらも、とても充実していた。でも大学を卒業して社員になると、『もしできなかったらどうしよう。』と、ひとりで勝手にマイナス思考になってしまいました。もともと自分に対してプレッシャーをかけるタイプの人間だったので、入社してから店長になるまでの半年間はとても不安でした」。
学生時代にも店長代行として店舗業務の経験はあったものの、社員となったことで、任される責任の重さに押しつぶされそうになっていたというのだ。
「あの頃はよく泣いていました。スーパーバイザーに相談して、『もう辞めます』と言ってみたり。困らせていたと思います」。
そんなときに横山さんの心の支えとなったのは、かつて自分を信頼し仕事を任せてくれた先輩店長たちの存在だった。
「当時まだ学生だった私に、大事な店の計画、売り場づくりや在庫管理、そして朝礼までも任せてくれたんです。そのように学生の私に責任を持たせてくださったことを、当時の店長たちにはすごく感謝しています。だから絶対に恩返しをしたいと思いました」という横山さん。
学生時代にお世話になった店長たちの顔を思い浮かべながら、「入社半年で店長になる」ことを目指した。自分のためではない。「お世話になった店長たちの喜ぶ顔が見たい。そしてお礼を言いたい」という一心だった。
ユニクロでは店長になると、店長会議の会場に大きく氏名が掲示され、檀上に上がることが出来る。熱意と努力が実り、横山さんは入社から半年後に店長昇格を果たした。新人店長の昇格を祝う檀上に上がった横山さんは、会場に集まった店長たちを見渡した。そして、かつてお世話になった店長たちに目を向けると、店長たちの顔もまた、後輩の昇格に立ち会う喜びで誇らしげに輝いていた。
現在、横山さんはスーパーバイザーとして千葉県柏エリアの店舗を担当している。いまの横山さんにとって、仕事のやりがいとは何だろうか。
「目の前のお客様の顔が見られること。そして店長やスタッフの方々が目標に向かってみんなで仕事をすることで結果があらわれ、スタッフたちの喜ぶ様子を見られること。そしてそれがスタッフの昇給昇格につながっていくのを見られること」と、横山さんは言う。
店を動かしているのは、店舗で日々お客様と接している店舗スタッフひとりひとりなのだ。だからこそ、スタッフたちにどれだけ本気になってもらえるか、そこに店舗の成績がかかっている。会社の期待に応えるかのように、店舗スタッフたちの仕事に対する熱量は概して高い。みんな一生懸命なのだ。
ユニクロ店舗には子育て中の女性が多い。それは自宅近くで働けるというメリットがあるからだろう。
あるスタッフのお子さんは小学生。午後になると、お母さんの働いている店舗へ、「ただいまー!」。という元気な声とともにやってくる。このような環境は子供にとってもお母さんにとっても安心感があるに違いない。
またある時は、普段は育児のために平日日中しか店舗に出られないスタッフが「お客様の来店が多い夜間にも働いて、スキルを磨きたい」という。そこで店舗スタッフの一人が「私、保育士の資格持っているから」と自主的に自宅で他のスタッフの子供たちを預かってくれた。
こういうことが、ユニクロ店舗で自然に起きている。みんな仕事が好きだし、スタッフたちは本当に仲が良い。店の目標を達成するために、お互いが協力しあう雰囲気が自然に生まれている。
子供を持つ女性たちの「もっと働きたい」に応えるため、会社もバックアップの仕組みを用意している。会社が指定する繁忙日に、従業員が子供を預けて出勤する場合には、預ける際にかかった費用を一日あたり最大5000円支給する。子供の預け先は友人でも、祖父母でも、誰であっても構わない。これは保育園がひらいていない日曜・祝日や夜間に働くユニクロ店舗スタッフにとっては実にありがたい制度だ。
パワフルに活躍する横山さんだが、はじめからそうだったのではない。まだ独身の頃だったが、働き続けることへの不安を感じていた時期があるという。
「会社を辞めたいと言っていた頃、私の周囲には結婚しても店長としてキャリアアップしている女性がいなかったんです。だから『この会社って、本当に女性が働いていける会社なのだろうか』って不安で仕方がなかった。でも、実際には結婚してもキャリアアップしている女性は社内にたくさんいました。仕事と家庭の両立は工夫とやり方次第でいくらでもうまくやっていくことができます」。
「結婚するということは、会社から見れば出産で仕事を休むかもしれないというリスクがある。それでも会社は私にとってポジティブな配置をしてくれた。それがうれしくて、上司の期待に応えたいと思った。そのときから、もう『辞めたい』と思うことはなくなりました」。
そして、「もし、女性がいまの環境を「働きにくい」と感じることがあったら、仲間を作り、同じ考えを持つ人と一緒に上司や人事部門に話をしてみる。そんな小さなことからスタートしてみてほしい。自分がどのように働いていきたいのか、それを身近な人に伝え、理解してもらい、それを実現するための環境を自分自身でつくる努力をすること。それが大事だと思います」。
ユニクロという会社の魅力について、「どこまででも成長できる。個人も、お店も、スタッフも、会社も」と横山さんは言う。ここには、挑戦できる喜び、目標を達成する喜びがある。そしてそれらを分かち合う気のおけない仲間がいる。彼らは単なる「同僚」。などではない。「仲間」なのだという思い。そんな強い絆がごく自然に生まれるユニクロの社風こそ、多くの女性たちを鍛え、育てあげてきたパワーといえるかもしれない。
株式会社ユニクロ 営業部
スーパーバイザー 横山 和(よこやまかず)
(Report 大橋智子)
Copyright©はたらく未来研究所 All Rights Reserved.