第4回
女性の視点が必要になってきた。
女性エンジニアの母数をさらに増やしていく
ヤフー(東京・港区)
ヤフーが誕生したのは1996年のこと。それから20年たって、インターネットの世界ではあまりにも有名な企業となりました。そのヤフーは約5500名の従業員のうち女性従業員が1,554名を数える職場であり、女性の活用では先頭を走る企業でもあります。そこで女性活躍の最前線の様子を知りたいとお話を聞きに行きました。
お話をしていただいた斎藤由希子さんはコーポレート統括本部の人財開発本部長。同社が創立3年目の1999年に入社しました。当時はほんの100名くらいの規模の会社だったそうで、そんな黎明期から管理部門の女性リーダーとして企業の成長を支えてきた斎藤さん。その過程は必ずしも順風満帆ではありませんでした。苦い体験を通して得たものを、若い、次の世代に受け継ぎたいという思い。そしてこれからの女性たちの課題をお伝えします。
斎藤さんが初めて管理職になったのは2004年32歳の時。その後、結婚と2人の子どもの出産。斎藤さんが完全復帰を果たすのは37歳の時だった。この当時、会社は大きな変革期を迎えていました。
「私が部長職に任命された3ヵ月後に、現経営陣を迎えての新体制になり、それにともなって人事諸制度も大きく変わることになりました」。
実はこの頃が斎藤さんにとって、一番辛い時期だった。
「人事制度の一つとして、上司が部下から評価される「バリュー評価」や「ななめ会議」という仕組みも導入されました。この時の部下からの評価は思いもよらないもので、私は“孤高の人”という言葉をもらったんです。頭をガツンと殴られるような衝撃でした。こんな風に見られていたんだ、とショックでしたね」。
さらに会社からこんなプレッシャーが加わる。
「上司の役目は“部下の情熱と才能を解き放つこと”、それができない人間には管理職から外れてもらうと。同時に私にはこんなことも要求されました。女性従業員への影響力を高めること、さらに仕事と家庭を両立することでした。男性の管理職も同じように言われるのか?そんなふうに思ったのをよく覚えています」。
会社の体制が変わりゆく中で、“いったいどうすればいいの?”と悩む日々が続いたそうだ。
この辛い時期を過ごしたことが、人材育成の原点になった。
「もがき苦しんだ時期、どうすればいいのかを考え続けました。辿り着いたのは、“部下に仕事をまかせる”ということと、“まかせた仕事の合格ラインをはっきり提示すること”でした。紆余曲折ありましたが、人材育成において大切なことを学びました」。
斎藤さんは部下と関わる上でのコミュニケーションスキルを磨いていった。
「部下の声に耳を傾け、部下の“強み”を見ること。他者を受容することが大切だとわかりました。これを実践していくと、面白いように組織が変わっていきました。組織である以上、一人で仕事をしているわけではありません。上司・部下・同僚と率直に語り合える場をつくることが仕事を進める上で最も重要。これが上司の役目なんだと思います」。
テクノロジーの進化と共に、働き方はどんどん変わってきている。2014年からは月に2日間、社外を含めてどこで働いてもいいという「どこでもオフィス」という制度も導入した。さらに、本社移転にあわせ、フリーアドレス制を導入し、部署にこだわらず社内のどこにいても仕事ができるようにする予定だ。
「インターネット業界だけでなく、今後ますます働き方は自由になっていくことでしょう。そうなると、逆にその弊害も容易に予想できます。それは、“社内の人間関係が稀薄になっていくであろう”ということ、上司・部下・同僚の間のコミュニケーションが一層大事になってくるということです」。
ヤフーの女性管理職のパイオニアである斎藤さんはさまざまな人財育成人事制度改革に取り組んできた。
「ヤフーでは、三つのフィードバックの機会を設けています。一つ目は、原則週に1回、必ず上司が部下と30分程度の面談を行う「1on1 ミーティング」です。二つ目は、年1回、人財開発カルテに基づいて上長や関係者が、「才能と情熱を解き放つにはどうしたらよいか」を話し合う「人財開発会議」です。三つ目は、上司が部下たちからフィードバックを受ける「ななめ会議」です。ファシリテーターがついて、部下たちが上司に関して「知っていること」「続けてほしいこと」「止めてほしいこと」「今すぐ始めてほしいこと」の4つを議論します。私自身が部下からのフィードバックを受けて思うことですが、部下は上司を本当によく見ているなと感心しています」。
現在、ヤフーでの女性管理職は177人に及ぶ。この数は、全社員の14.4%を占めている。
一般にキャリア形成といえば、自分が何をしたいのかを考え、計画的にそれを実現していくことが重要だと教えられる。それは確かに大切なことだがインターネットの業界は特に変化のスピードが速い今の世の中は、なかなか先が見えない。「目標を設定して邁進しようとしたところで、予期せぬ事態に見舞われることもあるんです。例えば、自分自身や配偶者が健康を害することになったり、親の介護があったりと。一本道で目標に辿り着けることは、少ないんです。だからこそ、キャリア形成をしていく中で、予期せぬ出来事に備えなければいく必要があると感じます」。
キャリアを高めて行く上で、人との関係構築力が大切になる、その一方で働き方はもっと自由になり、人間関係は稀薄になっていく。この中で、従業員一人一人が、働きやすい職場環境を実現していくことができるのか。斎藤さんは、このように考えている。
「自分自身のスキルを磨くことは重要です。でも、それだけに一生懸命になってはいけないと思います」。キャリアを追求するためには、まず人としての「人間力」に磨きをかけることが大切だというのだ。
「それは他者を受け入れること、応援すること、協力することです。そうすれば、予期せぬ事態がおきたとしても、自ずと周囲に助けてもらえるような人になれる」。育児と介護を経験し、部下から助けてもらった経験のある斎藤さんだからこそ、この言葉に説得力がある。
女性が活躍できる企業であるための人事制度を整えてきた斎藤さん。残された課題は2つあるという。ひとつは女性も活躍できる「風土の醸成」。もうひとつは「採用」だ。
一つ目の課題。
「女性も活躍できる風土をつくるためには、社内全体で取り組むことが必要だという認識を持っています。今年の6月から執行役員による「スポンサーシップ制度」を導入しました。執行役員が「育児」「女性の健康」「女性活躍」などのテーマごとに有志社員が活動するプロジェクトをサポートすることで、経営層から従業員の多様性を支援する風土づくりを推進していきます。とくに女性従業員には、社内外の方々とのコミュニケーションを増やし、ネットワーキング密度をあげていくことで、リーダーシップをどんどん発揮していってほしい。そんな機会のひとつになればと思っています」。
二つ目の課題。
「PCからスマートフォンやタブレットに。そしてIoT・AIへ。インターネットがより生活者に近づいていく中で女性の視点がもっと必要になります。現状のヤフーに目をむけると、女性従業員の割合は約30%。エンジニア職種に絞ると女性は約10%になります。サービスを開発する現場で女性の従業員数が圧倒的に少ない状況です。この打開策は圧倒的に少ない女性エンジニアの母数を増やすこと。今後はどんどん女性エンジニア採用に向けたPRをしていく予定です」。
インタビューの終わりに、斎藤さんはこんな思いを話してくれた。
「ヤフーという企業が社会人としても職業人としても、人として成長できる企業だと思われたい。そのためには他者の成長を喜び、互いにサポートしあうような、チームワークで高め合っていける企業風土を育てていきたいと考えています」。
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ヤフー株式会社
コーポレート統括本部 人財開発本部長
斎藤由希子
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(Report 高谷麻夕)
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