第14回
トップも「さん」付けで呼ぶフラットな社風の中、
ボトムアップで改革を推進
キユーピー株式会社(東京・渋谷区)
キユーピー株式会社は、2007年からキユーピーで働く人が仕事と私生活を両立して働き続けられるようにワークライフバランス活動に取り組んできました。2015年10月に人事本部にダイバーシティ推進チームを設置してからは、現場レベルの提案や活動を情報共有するための社内サイトを立ち上げるなど取り組みが活発化しており、女性の管理職は2011年から2016年の間で約3倍(国内グループのみ)に増えました。社是・社訓を大切にしてきたことが、こうした活動の下支えになっていると語る人事本部人材戦略推進部の久保薫部長、同部署のダイバーシティ推進チームのチームリーダーを務める山根真希さん、そして富士吉田キユーピー株式会社の加納優子代表取締役社長に話をうかがいました。
キユーピー株式会社が、本格的に働き方や働く環境を見直していこうと、30代までの若手社員で構成する「わく☆きらの会」を結成したのは2008年のこと。ワークライフバランスの考え方を社員に浸透させることを目的に、自分たちの生活に必要な仕事、家族、趣味といった要素をサラダボウルの中に書き入れて図式化する「ワークライフサラダ」を作成しながら、生活スタイルを見直すことにしたのだ。
「そうした活動の中でもとくに力を入れてきたのが女性活躍の場を広げることです。女性の勤続年数を伸ばし、活躍し続ける女性を増やそうと、次世代支援の充実に取り組みました。キユーピーで働く誰もが社是である「楽業偕悦」を感じられるようにと考えた結果でしたが、当時はなぜ女性を特別視するのかと思う社員もゼロではなかったと感じます」と話す久保さんは、長年人事本部に席を置き、女性が働きやすい制度づくりに携わってきた。この成果として女性の管理職は2011年から2016年で約3倍に増えたが、同社はさらに女性管理職の割合を2018年度末に10%へと引き上げるという目標を掲げている。
久保さんと共にダイバーシティ推進に関わる山根さんは、そんな同社の過渡期に出産を経験している。
「1人目のときと、2人目のときでは全然違いました。育児休暇中も会社から業務関連の情報が届きましたし、育児中の時短勤務が最長で6年可能など、2人目のときは当社の制度が整ってきたという実感が持てましたね」(山根さん)
各部署や各工場で独自に考案した制度を、それぞれに導入していることも同社の特徴だ。育児復帰者のみで担当する製造ラインをつくる「はぐくみキッチン」(中河原工場)、育児中で時短勤務のため早く帰る女性の情報交換の場となる「ママランチミーティング」(五霞工場)などがその例だ。
「現場レベルでの提案を大事にしています。例えば当社には何十年も前から続く社内論文制度があり、自分たちが抱える課題を論文で発表しています。女性社員から子育てと仕事の両立をテーマにした論文が出されたことがきっかけになり、女性の活動推進に関連した取り組みが始まったという例もあります」(久保さん)
各部署や各工場の動きを把握し、情報共有や発表の場を設けながら、全体の方向性を示していく役割をダイバーシティ推進チームが担っている。
「社内サイトを立ちあげて情報共有を行ったり、育児復帰者向けのセミナー開催など会社全体のことは推進チームが担っています。配偶者に転居を伴うような異動があった場合は、受け入れ先があれば異動できる配偶者異動制度の充実や、転居を伴う異動のない総合職制度を新設することにより、地域職から総合職への転換を促進、活躍の場を拡大できる環境を整えました」(山根さん)
また2016年から富士吉田キユーピーの経営を任されている加納さんを中心に始動した「グループ女性管理職勉強会」も新しい活動の一つだ。
「もともと若い世代向けのワーキンググループはありましたが、女性の管理職クラスのネットワークはありませんでした。同じ事業所内に相談できる女性管理職がいなかったこともあり、自分たちでもっと勉強したいと思い、グループの女性管理職に声をかけ勉強会を立ち上げました」(加納さん)
加納さんはダイバーシティ推進チームに相談し、グループ全体で約90名いる女性管理職に声をかけた。毎回約30名以上の参加者が集まる勉強会には、キユーピーの役員や本部長をゲストスピーカーとして招くなど社内の協力体制も心強い。
ダイバーシティ推進チームが設置されたとはいえ、今まで以上に働きやすい環境づくりを進めていくためには課題も多いそうだ。
「育児休暇後に仕事復帰しても、子どものお迎えなどがあって自分が早く帰ることに申し訳ないと思ってしまう人が多い。でも子どもが小さいうちは当然のことなんですよね。だから当然だと思えるメンタル面のハードルをなくしていくことが大事です」(山根さん)
「私は人事本部として、全国の事業所でダイバーシティの推進を頑張っているメンバーのためにもトップを巻き込みながら、ダイバーシティの推進は、全社の方針として打ち出したものだと声を上げ続けなければと考えています。それと同時に社員に理解してもらうための会話が大事になります。また本社は18時30分になったら消灯され、まだ仕事が残っている人は残業ルームに移動して仕事を終わらせていますが、働き方を変えるための問題意識を持つために、今の働き方がどうなのかを考えていただくきっかけづくりにも力を入れていきたいと思います」(久保さん)
「誰かが遅くまで働いていれば、早く帰ることを申し訳なく思う気持ちをゼロにするのは難しいと思います。やるべき仕事とそうでない仕事を見直し、効率よく働くことが大事だということを全員が理解しないと労働時間の短縮にもつながりません。早く帰りたい人もいれば、もっと働きたい人もいるなかで、いかに足並みを揃えていけるかが課題でしょう」(加納さん)
最後にダイバーシティを推進するうえで、何が大切なのかを聞いてみた。
「創始者の中島董一郎は、世の中は存外公平であるという考えを大切にしてきました。その教えを伝承してきた当社には、『何が本当か、何が正しいか』、『誰が言っても正しいことは正しい』という社風があります。社内では社長であっても“さん付け”で呼ぶ文化があり、社員同士が遠慮せずに意見するなかで、何が正しいのかを常に考えてきました。こうした社風がダイバーシティ推進の土台になっていると思います。想いを持った人が現場には必ずいるので、その人の成し遂げたいことの支援や動きやすくする環境づくりが人事本部として大事だと思っています」(久保さん)
「私はとくに若い人や、現場の人に旗振り役をしてもらうこと、後輩から提案してもらって、先輩がそれをサポートする形が理想だと思っています。『無理でしょ』と止めてしまうのではなく、1回やってみたらと言える環境でなければいけないと思っています」(山根さん)
「理念について何度も話し合ったり、社員同士で考える時間をつくろうとする意識はとても高いグループです。そうしたことをくり返してきたことが、結局は社内の風通しの良さにつながっていると思います。仮に上から言われたことでも納得できなければ意見できることが大事ですね」(加納さん)
(Report 吉川ゆこ)
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