第10回
女性活躍を主眼に取組みつつ、
次の課題は社員の4割を占める外国人社員への対応
アサヒビール(東京・墨田区)
アサヒビールが育児休職の制度などを皮切りに、女性たちが働きやすい環境整備に取り組み始めたのは1980年代後半のことです。ときを経て2011年に純粋持株会社としてアサヒグループホールディングスが誕生し、2014年になると、グループ全体をまとめるグループダイバーシティ推進室が設置(現在はダイバーシティ推進グループに改訂)され、新たな体制で活動を進めることになりました。
ダイバーシティ推進グループでは、性別や国籍の違い、障害の有無に関わらず全社員が活躍できる環境づくりに取り組んでいます。そうしたマネジメント面の動きと、実際に働く女性社員の様子をうかがおうと金色のビールジョッキの形が特長的なアサヒグループ本社ビルを訪ねました。お話をうかがったのは、グループのダイバーシティマネジメントを担当する光延祐介さんと林越智子さん。そして活躍する女性社員の一人、内崎亜希子さんです。
キャリア支援の目標となる数字が、国内の主要グループ会社で設定した女性役員登用と女性管理職比率だ。2015年12月の時点でアサヒグループホールディングスの女性管理職比率は13.6%。2021年はこの比率を20%に引き上げたいと考えている。女性役員登用の目標設定は数値化するのが難しそうだ。
「実現不可能な数値を設定するのではなく、実態に合った目標を立てて着実な女性活躍の推進を狙っています。この支援策としての、たとえば在宅勤務やフレックス制度なども取り入れています。各部署の上長が率先して使うことで、子育てをしている女性も、そうではない女性も、男性たちも制度を使いやすくなるわけで、そういう取り組みも大切だと思います」(光延さん)
このような女性が活躍できる風土をめざすには、そもそもの母集団を形成する採用段階から考えていく必要がある。
「新卒採用では、グループ各社の企業イメージごとに志望する学生さんの層も異なっています。年度によっても変化しますが、例えばアサヒビールはビールのイメージが強いため、男性の方の応募が比較的多い一方でアサヒ飲料やアサヒグループ食品は女性の応募者が多い傾向があります。弊社は女性活躍を大きなテーマに取り組んでいますが、あくまで働く人たちの多様性を大切にしていこうというのが大前提であり、個人としてそれぞれの能力を活かしていただきたいと考えています」
このあたりで内崎さんにも話に加わってもらった。2002年にアサヒグループ入社。現在は営業本部業務用統括部のフードサービス室のシニアプランナーとして活躍する。内崎さんは職場結婚。ご主人も同じ社内で働いており、2人のお子さんがいる。女性社員の多彩な活躍ぶりの一端を語ってもらおう。
情報収集のために夜間に飲食店を回ることもあるという内崎さん。子育てと仕事の両立については、どのように考えているのだろうか。
「まるで毎日ダッシュをしているようです。朝は主人が娘を保育園に送り、夕方のお迎えは私です。17時半に退社し、そのまま保育園に向かいます。主人と私でお互いの仕事の予定を3か月先まで擦り合わせながら、夜に飲食店に出向く仕事がある時は事前にスケジュール調整を行なっています。月に数回フレックス制度を利用し、必要があれば在宅勤務を利用することもありますね。子どもの学校行事などがあれば、半日だけ家で仕事をしたり時間を有効に使うことができています」(内崎さん)
夫婦での協力と、社内の制度を利用し、安定したワークライフバランスを保っている内崎さんは、女性活躍のロールモデルの一人といえる。自分自身が築いてきたキャリアを振り返って、ご本人は「周囲の人の理解と協力のおかげ」と語る。
「働き続けるうちに、自分が会社の中でこういうふうにやっていきたい、というイメージを思い描くようになり、そういう自分の希望を上司や周囲の人に伝えてきたのが今に繋がったのだと思っています。育児休暇を2回取得して、希望してまた同じ部署に戻ってくることができました。女性は自分のキャリアが途中で分断されることもあるかもしれませんが、自分のメッセージをしっかりと発信しておくことにより、思い描くビジョンの実現に近づけるのではと思います。また自分の経験から、後輩には『結婚する時は、協力してくれるダンナさんを選んだほうがいいよ』と伝えています(笑)。働き続けたいと思うならば、それを理解してくれる協力者が身近にいることは、とても大切だと思うからです」(内崎さん)
最後に、今後のダイバーシティ推進における課題についてお聞きした。
「現在は女性の活躍推進が大きな課題ととらえていますが、それと同時に外国人社員への対応も大事です。現在グローバルに事業を展開しており、全社員の約4割が外国人となりました。社内の英語表記を当たり前にしたり、コミュニケーションの面でも、男性、女性、外国人などそれぞれの強みや価値を活かせるような人員配置やチームの組み合わせを考え、ビジネスに繋げていきたいと考えています」(光延さん)
(Report 佐藤愛美)
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