人手不足への危機感、春季労使交渉に変化

2019年の春季労使交渉が28日、事実上スタートした。各業界が賃金を底上げするベースアップ(ベア)を実施するのが例年だが、今年の春季交渉にはある変化が起きている。
それは労使とも従来型の賃金改善より、人材の確保を優先する姿勢が鮮明になっていることである。高卒や非正規の待遇改善や外国人の受け入れなど、多様な働き手のニーズに応える環境整備が焦点になっている。(日経01-29)

 

 

自動車総連はベアの水準を示すのをやめ、中小の賃金底上げを図る月額賃金目標の獲得を重視する方針に転換。「同じベアを実現しても大企業と中小の格差は埋まらない」(高倉明会長)と判断した。電動化や自動運転などの技術革新が進み、人材争奪が厳しくなるなか、中小企業の底上げで産業の競争力を高める。

電機連合は高卒労働者の確保に動く。19年要求では高卒初任給の水準改善額を4000円とし、初めてベア要求額(3000円以上)を上回った。

各業界で一律の賃上げがそぐわなくなっている背景には、業績のばらつきに加え、人手不足への強い危機感がある。
人手不足を補うには非正規や外国人労働者、シニアなど多様な雇用形態への対応が必須だ。来年、大企業に待遇差の是正を目指し同一労働・同一賃金が求められる働き方改革関連法だが、これを先取りした動きも出てきた。非正規の年収を2%引き上げることを要求したり、一時金の制度化など人材確保に勤しむ。
4月に改定される予定の改正出入国管理法では、外国人労働者の受け入れ体制の整備も重要になる。外国人が3割を占める労組は、外国人の職場環境の改善を要望したり、外国人労働者の実態調査を進める。
人手不足に抗うには働く環境を整えないといけない。

一方、人工知能(AI)技術者など争奪戦が激しいデジタル人材の獲得では、一律の賃金体系をベースとする企業が出遅れている。先行するのは春季交渉の枠組みにとらわれない企業だ。
ヤフーや楽天は春季交渉がなく、個人の目標に対する成果などを基に年2回の給与改定を実施。外国人も含めた全従業員が対象で「年功序列や定期昇給ではなく、世界基準でグローバル人材を集める」(ヤフー)。労組がないディー・エヌ・エー(DeNA)は優れたAI技術者に最高1000万円の年収を提示している。トヨタ自動車や日立製作所などは米シリコンバレーなどで優秀な海外人材獲得に動くが、「横並びの日本人社員との処遇格差が開いている」(自動車大手)という。