Special Reprt

第12回

会社に来たくなるオフィスづくり。

働く環境と働き方を変えて柔軟な組織へ

KDDIウェブコミュニケーションズ(東京・港区)

株式会社 KDDI ウェブコミュニケーションズは 2016 年 9 月の本社移転を機に、仕事の効率性を上げるには環境が大事と考え、オフィス空間の改革に取り組みました。そうした環境づくりと同時に進めているのが、時差出勤制度やテレワーク制度など働き方に関わる既存の制度の見直しで、独創的な制度づくりに実験的にチャンレンジし続けています。フリースペースを増やしたことで社員間のコミュニケーションが活発になったという新しいオフィスで、山崎雅人代表取締役社長、管理本部人事総務部の元井聡美さん、現在テレワーク勤務のコミュニケーション本部エバンジェリスト部の長嶋亜紀さんに話をうかがいました。

階段状のフリースペースはプレゼンテーションの場として使われることも多いため「TEDスペース」と呼ばれている。ミーティングやイベントと使い方は多様だ

オフィスのダイバーシティ化は環境と制度の両輪で

通されたオフィスは開放的で明るい雰囲気だった。階段状のフリースペースや、マッサージチェアの置かれたリラックススペース、カフェスペースもある。アーティストによって描かれたウォールアートも室内に個性を添えている。
「社員が増え、以前のオフィスが手狭になったので移転することにしました。その際に、どんな環境が一番働きやすくて効率も上がるだろうと社内で議論した結果、会社に来たくなるようなオフィスだけど、会社に来なくても働ける環境をつくるというテーマにたどり着きました。クラウドワークが進み、どこでも働ける時代だと言われますが、会社としてダイバーシティを推進するには、遠隔で働けるというだけでは不十分。社員一人ひとりが、働き方を選べる会社を目指しました」

そう話す山崎社長は、設立から30年を迎えた同社の代表取締役社長として2016年4月に就任。これまでも時差出勤制度やテレワーク制度、育児休業制度などはあったが、利用している社員は限られていると感じたそうだ。出産や子育てといった女性のライフイベントと仕事をどう両立させるのかだけでなく、携わる業務、そしてライフスタイルに合わせて柔軟に働き方を選べる仕組みづくりを加速させることにした。

前例がないからこそ、大きなチャンス

働き方改革の動きは以前からあった。これには、テレワーク勤務前提での決定者第一号として、長嶋さんが入社(2015年)したことがきっかけになっている。

長嶋さんは在宅テレワーク前提の勤務として採用され、普段は広島の自宅で働きながら、所属部署がセミナーを開催するタイミングなどに合わせ月一度のペースで本社に出社している。

「長嶋を採用するとき、テレワーク制度を整え始めた手探りの時期ということもあり、広島からテレワークで勤務するのはどうだろうかと話を持ちかけました。これから起こるであろう事象に対して仮説を立て動いていくための事例となるチャンスだと感じました」(元井さん)
「出産で仕事を辞めると職場復帰や社員として働くことが難しくなった人たちを見て、もっといろんな働き方があればいいと感じていました。私は子育て中ではありませんが、テレワークという働き方により、結果的に住み慣れた広島での生活や住居環境を変えずに勤務できているのは、嬉しいことでした」(長嶋さん)

現在、長嶋さんのように広島や群馬といった在宅で働いている社員もいれば、職場復職したばかりの奥さんをサポートしたいとテレワークを選択している男性社員もいる。もともと育児休暇の取得率は100%、有給休暇の取得率も81.5%(ともに2015年度)と、決して働きにくい環境ではなかったが、長嶋さんの入社、そしてオフィスの移転を機に改革が進んだ。現在は、業務に支障がなければ当日申請で誰でもテレワークを選択できるし、2017年2月からは、就業時間にコアタイムを設けないフルフレックス制度を順次導入していくなど、目標にトライアルを重ねている。制度に人を合わせるのではなく、人の状況に制度を合わせていく方針だ。

 

自分を可視化させるためのコミュニケーション術

テレワーク勤務の長嶋さんに、どんな点に注意して業務にあたっているのかと聞いてみた。

「仕事中はテレビ電話をつないで、常に同僚とコミュニケーションを取れる状態にしています。その場で聞いたほうが早いことも多いし、一緒に仕事をしているという意識を持ちたいからです。普段オフィスにいないぶん、同じ社員なのにお客さま扱いになりがちだし、私という存在や、仕事の成果が見えにくいのでコミュニケーションを大事にして、自分を可視化させることを意識していますね。本社に来るときは仕事をするだけでなく、他部署の社員とも話して帰るということを心がけたりしています」(長嶋さん)

長嶋さんは本社に出社するときに、広島限定のお菓子を持ってきてカフェスペースで他部署の社員とも話すきっかけをつくったりしているそうだ。そうした働きかけだけでなく、新しいオフィスになってフリースペースが増えたことも、社員同士のコミュニケーションを円滑にすることにつながったのではないだろうか。

課題は対社内と対社会への向き合い方

話をうかがうと、多様な働き方を可能にする体制づくりにとても積極的だと感じられるが、社内ではどんなことが今後の課題としてあげられているのだろうか。

「人事部としては、労働基準法など法に沿うという面は慎重にならなければいけないというのが大前提にあります。それから社内においては、とくに新しい働き方に戸惑う社員をどうサポートするかが課題です。例えばオフィス移転の際にも、掲示板のようなものをつくって社員の意見を聞いたのですが、たくさんの意見が集まりました。そうした自由に発言できる場所を持ちつつも、悩みを抱える社員には個別で話を聞くなどしていますが、もっとサポートが必要だと思います」(元井さん)

「今後の課題は大きく分けて3つです。働き方の自由度を上げると、今まで以上に成果や自己責任を求められるようになります。結果的に個々の負担が増え、ストレスに感じる社員も増えるので、会社としてバックアップすることが1つ目の課題です。それから外部から、そこまで自由度を上げて本当に生産性を維持できるのかと心配されるようでは意味がありません。制度を利用している社員が、特別な存在にならないように注意することが2つ目。そして最後は、いかに現在の法律と折り合うかです。時代の流れの中で多様な働き方に合わない面も出てきている部分に、どう折り合いをつけていくかが課題でしょう」(山崎社長)

取材にご協力いただいた元井さん、長嶋さん、山崎社長と、広報の伊勢彩矢美さん

(Report 吉川ゆこ)

株式会社KDDIウェブコミュニケーションズ
設立:1987(昭和62)年2月25日
本社:〒107-0062 東京都港区南青山2-26-1 南青山ブライトスクエア10階
従業員数:157名(2016年8月末現在 派遣、契約社員を含む)
事業内容:クラウド・ホスティング事業、ウェブサービス事業、プラットフォーム事業
http://www.kddi-webcommunications.co.jp/