提言:″女性活用”は目的でなく手段と考える 会社経営の手段として働き方の選択肢を増やしていく
佐藤浩也

「女性活用」というテーマにあたり、私の立場では一般論を展開するよりも自らの実体験を紹介する方が有意義だと感じている。人事組織コンサルティング業を核とする㈱リンクアンドモチベーション(東証一部 #2170)を母体とする当社だが、2012年初めのMBOにより22名で再出発を果たした。現在は、50名規模の独立系中小企業である。雇われ社長からオーナー社長へ転身して3年10カ月、この間でも様々な経験をした。

 当社にはインテリアデザインを主たる業務とするチームがあるが、そこに所属する当時新卒4年目に入る若手女性が退職の意向を口にした。入社以来着実に力を付けこれからを嘱望される彼女、「仕事自体にやりがいはあるが、あまりにも時間に振り回される今の生活はしんどい。この先の結婚、出産、育児等を考えても、未来が描けない。」がその真意であった。当時はコンサルタント業を前提とした人事制度、つまり"爆走コース”しか用意されていなかった。私は苦肉の策で、疾病・出産・育児・介護などの対策として用意されていた「ワークスタイルオプション制度」を拡大解釈して、時間制限を強化した“快走コース”を臨時でつくることで対処した。11ヶ月後、プロジェクトリーダーを務めることを前提とした「ディレクション職」とリーダーの下で一定範囲の役割を担う「サポート職」という二2つの職種を設けて制度化した。臨時対応のガイドラインの中で十分なパフォーマンスを発揮してくれ、このギブ&テイクは継続できると思わせてくれた彼女のお蔭だった。

 この制度化をキッカケに、当社の女性社員の業務分担や役割アサインの発想に変化が起きた。同時に中途採用のアプローチも大きく変化した。結果、制度化からの2年半の間で、既存社員の一人が「ディレクション職」から「サポート職」に変更。中途入社で「サポート職」を選択して活躍してくれている方が5名、うち3名が既婚者。現在、産休待ちが2名、産休中が1名、育休明け復職済みが1名と、50名規模の企業にしてはにわかにベビーブーム到来といったところだ。制度化と同時に、「サポート職」の役割に関しては属人性の排除と、二重化を強く意識し代替可能性を高める運営に切り替えた。これが功を奏している。

 こうして私は社員の出産を筆頭に、経営者として初めての経験を重ねている。今、心がけていることは彼女達の実感値をもとに、当事者にとってプラスになる選択肢を用意することだ。この間も制度のマイナーチェンジを繰り返し、少しずつ選択肢を増やし続けている。多くの選択肢があるということは、社員数と多様性の増加にともなって、性別を問わずにその価値を増すことは間違いない。
 中小企業の経営、その多くは余裕のない戦いを強いられているように思う。巷で言う「女性活用」に取り組んでいる暇はない。より良い業績を上げ、より強い組織をつくるために、男女を問わず、「ひとりひとりの人材を生かす」手段として取り組むべきテーマだと考えている。

2015-11-16

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