セブン銀行は人気声優が演じるイケメンキャラクターをATMの画面に登場させ、取引を案内するサービス「セブンコンシェルジュ」を制作し、都内数か所のATMで展開しています。
登場キャラは、優しい近所のお兄さん「海棠翔」(CV:前野智昭)、ちょっぴり反抗期の高校生「日向威月」(CV:小野友樹)、“コミュ力MAX”の大学生「燈野奏」(CV:岡本信彦)、“俺様”気質の若手俳優「月白九十九」(CV:木村良平)、心優しい中学生「神楽坂ニコ」(CV:代永翼)、オシャレなカリスマ美容師「鈴鳴杏樹」(CV:小林裕介)、ちょっぴりコワモテなカフェ&バーのマスター「氷室龍士」(CV:津田健次郎)の7人。
この「セブンコンシェルジュ」を担当した、業務推進部 副調査役の吉田さん、お客さまサービス部 副調査役の正岡さん、システム部の林さんにお話を伺いました。
スカウトされた畑違いのオタク女子3人でプロジェクトスタート
セブン銀行は「セブン-イレブンにATMがあったら便利なのに」という声から2001年に誕生した銀行だ。そのATMの数は今や24,392台!(2018年3月末)日本全国はもちろん、海外にも設置している。
セブン銀行とは何かの質問に、「セブン-イレブンに必ずある、あの赤いATMを運営している会社です。駅や空港にも設置を進めており、お客さまに一番近いATMを目指し展開しています」(吉田さん 業務推進部 副調査役)
「“いつでも、どこでも、だれでも、安心して”ご利用いただける便利なサービスを、皆様の身近な場所に提供することを目指している企業です」(林さん システム部)
「ひと言でいうと、金融インフラです。銀行というよりインフラだと思っています」(正岡さん お客さまサービス部 サービス企画担当 副調査役)
と、3人がそれぞれセブン銀行の魅力を教えてくれた。
その3人が取り組んだのが、「セブンコンシェルジュ」プロジェクト。乙女ゲームに登場するようなイケメンキャラがATMの画面上に表示され、コンシェルジュのように取引案内をしてくれるというもの。2018年8月から台数限定、都内数か所で展開している。
このプロジェクトが特異なのは、“オタク女子”が集められて始まったことだ。
セブン銀行内でオープンイノベーションを推進する「セブン・ラボ」という部署が、ゲームイラスト、マンガなどのコンテンツ制作・配信を行うスタートアップ企業、whomor(フーモア)とコラボすることを決定。フーモアが提案する、「イケメンコンテンツによる女性顧客の新規獲得および継続利用促進」に取り組むこととなった。
「とはいっても、やると決まったものの実際にコンテンツの良し悪しはわからない、ということから、社内でこういうコンテンツが好きそうな女性3人に声がかかった、という経緯です」(吉田さん)
3人のオタクの系統はそれぞれ異なる。
吉田さんは「2.5次元と呼ばれる、マンガやアニメが原作となった舞台が好きです」
正岡さんは「マンガやアニメ、声優さんが好きです」
林さんは「ゲームです。二人は俳優さんとか声優さんですが、私は2次元。ゲームとかイラストが好きです」とのこと。
部署も系統もバラバラの“オタク”女子3人。日ごろからオタクであることを隠さず公言しているというから、社内のオープンな雰囲気が窺い知れる。そこから白羽の矢が立ち、直接スカウトされた。
「上司から『ちょっとこういう企画があるんだけど、やってみない』みたいな感じで(笑)」(吉田さん)
「私もです。キャラクターの見た目や性格を助言するだけなら楽しそうだなと思って、軽い気持ちで参加を決めました」(林さん)
とはいえ、それは簡単な道のりではなかった。プロジェクトがスタートしたのが2017年3月。リリースしたのが2018年6月。1年以上の歳月がかかっているのだ。
毎日集まってミーティング。納得のいくものを作りたかった
「最初は軽い気持ちで参加するつもりでした」と林さん。やることは決まっていて、キャラクターの見た目や性格を助言すればいいと思っていたという。
ところが、いざスタートするとこれが大変!
当初は具体的な案がなく、「男性キャラクターを使ってセブン銀行で何かできないか」というジャストアイデアのみが3人に渡された。
「集まってみると、『そもそもこのプロジェクトは何だろう?』というところから始まりました。最終的にこれを世に送り出したとき、お客さまに何を伝えたいのか、ということから考えなければいけなくて。そこを自分たちのなかでストンと落とすまでに時間がかかったというか、苦しかったです」(吉田さん)
「マンガやアニメは好きですが、いつも“見る”という立場。“創る”という経験はありませんでした。生み出す側の苦労というか、何をすればお客さまに喜んでいただけるのか、正解が分からず悩んだ期間が長く大変でした」(正岡さん)
「吉田さんと同じで“最終的にどうしたいのか”と“そのためにこういうものを作りたい”という、いわばこのプロジェクトの根幹を考える必要があったのが大変でした」(林さん)
2週間に1回の定例会を行いながらも、毎日のように会社が終わってから集まってミーティングを重ねた。3、4時間、話し込むこともざらだった。それでもコンセプトの確定まで実に半年を使った。もちろん、自分たちの業務もきちんとこなしながらだ。
「最初はアプリでやればいいんじゃないかとか、キャッシュカードをイケメンの絵にするとか、色々なアイデアがありました。でも、セブン銀行といえばやはりATMを思い浮かべて下さる方が多いので、どうにかATMと組み合わせたものにできないかを検討し始めたんです。」(吉田さん)
方向性が決まったときは、すでに10か月が経過していた。「イケメンATM」というコンセプトが決まると、次は実際の作業へと移ることになるのだが、それも簡単ではない。
「やはり、公衆のすべてのATMにいきなりキャラクターが出てくるのはまずいよね、という懸念はずっとありました」(林さん)。吉田さんは「ATMの開発は大変だと知っていたので、無理だと思っていました」という。しかし、ATM開発の担当者に聞いてみたところ「できるよ」との返答。
そこから、ATMが使えるのならその方向で進めたいと考え、会社にあるテスト用のATMの中にこの企画の一部分を実際に作ってみて、どう感じるかを社内で確認することになった。
「初めて見たとき、すごくテンションが上がりました」と吉田さん。
「テストデモンストレーションを会長や社長、役員向けに行った際は、絶賛されるわけではなく『こんなものがあるのか』という雰囲気でしたが、ATMを前に盛り上がる3人を見て『こんなふうに喜んでくれる人がいるものなんだ』とこのプロジェクトに少しご理解をいただいた感じです。また、一般社員の方も、概ね会長たちと同じ反応でしたが、たまに『面白いことやってるね』と言って下さる方がいました」と吉田さん。
スタートとしてはまずまず、といったところ。とはいえ、このデモンストレーションはまだまだ準備段階のもの。ここからさらなる作り込みが開始された。
キャラクターとなるコンシェルジュは7人と決定した後、それぞれの性格などの細かい設定をし、キャラクターに合わせてのセリフを決める必要があった。
「例えば“いらっしゃいませ”でも、『このキャラクターだったらこんな感じでしゃべるだろうな』と考えて、Excelに書き込んでいました」(吉田さん)
そんな作業は楽しくはあったが、苦しいものでもあった。
「自分達自身、見る目が厳しいんです。『中途半端なものは出せない』という気持ちがすごく強くて」(林さん)
「3人で話し合うときはわーきゃー盛り上がって話が進むんですが、落ち着いて考えると『本当にこれで大丈夫なのだろうか?』と毎回不安になっていました」(正岡さん)
俺様キャラが乱暴な言葉遣いをするとセブン銀行としてはどうか?どこまで行けばいいのかで悩むことは多かったという。
不安を抱えながらオタクの聖地「コミケ」に出展
「最終的には自分達がやりたいようにというか、思っていた通りにはできました」(吉田さん)
3人の衝突はなかったですか?と聞くとそれは「なかった」との答え。「3人ともガチなオタクだったので」(林さん)「意思疎通と共感がスムーズでした」(吉田さん)が理由らしい。
特にこだわったところは・・・。
「声優のオタクとして、『それぞれのキャラにぴったりな声優さんを選ぼう』というところにはこだわりました。そこは私の得意分野である声優さんの“声”の知識をフル活用しました」(正岡さん)
「“みんなのATM”から“私だけのATM”という世界観を少しでも作れたら良いなと思っていました」(吉田さん)
「オタクとして、オタクに受け入れてもらえるものを作りたいということにはこだわっていました。特に企業がこのようなものを作ると批判も出ます。セブン銀行としてきちんと世に出せるものを作っていこうと思いながら取組んでいました」(林さん)
3人で役割分担をするのでもなく、3人で取り組んだという。それでも、自分のオタクとしての得意分野では積極的に意見を言う。また、業務推進部の吉田さんがリードし、お客さまサービス部の正岡さんがお客さま対応を考え、システム部の林さんが開発側から見た意見を出すといった、部署の違いも功を奏したらしい。
そして「イケメンATM」は2018年の夏と冬のコミケ(コミックマーケット)にも出展した。
「すごく不安でした」と3人は口を揃える。自分たちが「良い」と信じて創ったものが、オタクの聖地「コミケ」で、オタクたちのなかで評価されるのだから、それは恐怖だ。正岡さんは「ずっとTwitterをチェックしてどんな反響があるか見ていました」と語る。
結果は、大好評。多くのお客さまが、ATMに長蛇の列を作っていた。
「夏のコミケは、キャラクターは出てくるけど実際に入出金ができないテスト用のATMでしたが、多いときは100人近くの方に並んでいただきました」(吉田さん)
アンケートを取ったところ、地方に置いてほしいなどポジティブな意見が多かったとのこと。
「7人のキャラのなかでも自分の“推し”がいるんです。そのキャラを“好き”と書いてくれた人がいて、そのときはすごく嬉しかった」(正岡さん)
コミケへの出展はプレッシャーだったが、自分達で生み出したキャラクター・企画が多くの人に受け入れてもらえた瞬間に立ち会えたことは忘れられないという。
「『どうせ、こういうものを作ればオタクは喜ぶだろう』という企業の姿勢はやっぱり分かるものです。その点、私たちは自分自身がオタクで、ひたすらクオリティを追求したので、そこが受け入れてもらえたのかなと思います」(林さん)
もっとセブン銀行を多くの人に知って欲しい
現在は、都内のアニメショップ「アニメイト」(池袋本店・新宿店・渋谷店)に設置している。
「高校時代に通っていたアニメイトに自分が手掛けたATMがあるのは違和感でもあり、嬉しさもありました」(正岡さん)
今は通常業務のみに集中し、多忙な毎日を送っている。もしまたこのような機会があったらどうするか。
「大変なこともたくさんありましたが、生み出す側の努力も知ることが出来て楽しかったです。みんなと好きなものを語りながら仕事ができたことも楽しかった。なので、またこういった機会をいただけたら、ぜひやりたいですね。そのときはもっと広く、エリアを絞らず、全国展開して、多くのお客さまにセブン銀行がこんな取り組みをやっている、ということを知って欲しいと思います」(正岡さん)
「コミケでは女性だけではなく、男性のお客さまにもご利用いただきました。意外にも男女比は半々くらいで『男性向けコンテンツはやらないんですか』とご意見をいただきました。社内からも『俳優やタレントを使ったものができるのでは』などとアイディアが出ています。今回は女性向けのイケメンコンテンツでしたが、そこに絞る必要はなく、いろんなジャンルでの取り組みができればいいなと思います」(吉田さん)
「世界観を連動して、アプリなど、グループ会社も巻き込めるような、もっと広いものが作れたらと思います」(林さん)
3人ともすでに頭の中に構想はできているようだ。
昨今、キャラクターを活用したビジネスが盛んになっている。しかし、大企業がそこに取り組むことは少ない。セブン銀行の事例はまれだといえる。このような企画を英断したセブン銀行を、正岡さんは「今回のプロジェクトに限らず、通常の業務においても柔軟な会社の姿勢を感じることが多いです。手を挙げれば誰でもこういう取り組みに参加できるという点でも、当社の柔軟性を感じます」という。同様に吉田さんも「若いからできないという年齢の垣根はありません」とうなづく。林さんも「会社は信じて任せてくれます。失敗しても良い、取組みそのものに意義がある、だから自分たちが正しいと思うことをやればいい、と応援してくれました」と語る。特に会社のバックアップは心強かったと3人は力を込めた。
「好きなことを仕事にする」ということが最近、クローズアップされている。今回のプロジェクトはまさに、自分の”好き”をうまく活かした事例ともいえる。
「私は“オタク”だということを隠していません。上司や周りには知れ渡っているので、オンオフを上手く切り替えながら趣味も楽しむことが出来ています。オタクだということに関わらず、『私はこういう人だということを知ってください』とアピールすることに価値はあると思います」(正岡さん)
吉田さんも「アピールすることは価値になる」と同意する。「オタクであることは、自分を構成する一要素になっています。それをなくして自分を語れません」と林さん。
個性を認め、個性を活かす。人材ならぬ“人財”を体現している企業だ。
提供:株式会社セブン銀行
https://www.sevenbank.co.jp/
http://7-con.com/