今年で創業130周年を迎える株式会社マルアイは、山梨県に本社を構える紙製品メーカーです。明治時代に手漉き和紙の販売から始め、祝儀袋、封筒、学用品、模造紙など、日本人に馴染み深い紙製品を数多く生み出してきました。
今回ご紹介するのは、そんなマルアイのマーケティング部が取り組む「マルアイプロジェクト」によって誕生した商品。時代の変遷とともにデザイン性に溢れた紙製品が人々の注目を集めている中で、長い歴史を持つマルアイが大切にしている思いとは……?
商品の企画・開発に携わった4人の女性たちにお話を伺いました。
マルアイプロジェクトに携わるマーケティング課の皆さん。マーケティング課のメンバーは現在12名、部長以外が女性であるという。今回お話をお聞きした皆さんは、全員が中途採用で入社。それぞれのキャリアを活かし、プロジェクトに臨む。
「マルアイらしさってなんだろう?」
130年の歴史を見つめ直し、新たな商品を生み出す
10年ほど前からマルアイでは、新しい市場に向けたデザイン性の高い商品づくりに着手をし始めた。
日本の伝統的なのし袋を現在のスタイルに昇華させた「こち」を2009年に発売したことを皮切りに、2013年にはのしを付箋の形にして気軽に貼り付けて使うことができる「こころふせん」を発売。マーケティング課の係長である安村さんが入社したのは、ちょうどその頃のことだった。
「私が入社した頃から『マルアイプロジェクト』という取り組みが始まりました。マルアイプロジェクトは単なる商品企画・開発ではなく、社員のための“ワーク”なんです。中途で入社する人が多い中で、マルアイとして提供すべき価値に共通認識を持ち、マルアイらしさとは何だろう?と原点に立ち戻って新たな商品を考えていく取り組みです。売れれば良い、可愛ければ良いというわけではなく、マルアイらしさをみんなで探求することを大切にしています」(安村さん)
デフレに伴う大量生産の時代から、より付加価値のある商品の生産へ。日本全体の価値観の変遷とともに歩んできたマルアイもまた、変化の時を迎えている。商品企画係の菅田さんは、プロジェクトについてこのように語る。
マーケティング課 商品企画係 菅田晴子さん。学生時代にテキスタイルを学び、卒業後はジュエリー会社で商品デザインを担当。「高級品や嗜好品ではなく、より身近なものを作りたい」という思いを持ち、2014年にマルアイに入社した。
「我々の商品への考え方のひとつに『変わらない理由 変わりゆく自由』というものがあります。歴史の中で変わらないものもあれば、変わっていかなくてはいけないものがある。この考えを忘れずに、ユーザーの生活を豊かにするものを作っていきたいと思っています。常に、マルアイらしさとは何だろう?と探求していますが、答えはこれからもずっと探し続けるものだと思っています」(菅田さん)
新しい商品にも、使う人の思いを伝える要素を取り入れる
それでは実際に、マルアイプロジェクトでは、どのようにアイデアが生まれ、商品が形になるのだろうか?130年の歴史を振り返り、マルアイらしさを考えるこの取り組みでは最初の“探求”に多くの時間を費やすそうだ。
「プロジェクトでは、まずマルアイの“財産”を洗い出すことから始めました。過去の商品を全部出して机の上に広げ、パーツをばらしてみたり、捨てられてしまう素材を違う形にできないかと考えてみたり。そこから見えてくるものをヒントに、新しい商品のアイデアを考えていきました。
マーケティング課 夏川真里さん。美術系の大学に在学中、素材の面白さに気づき、紙の専門商社に入社。エンドユーザーにも手に取ってもらえる商品づくりをしたいと希望し、2014年にマルアイへ入社。これまでに培った紙の知識を活かし、企画開発を行っている。
そんな取り組みの中で生まれた商品のひとつが、こちらの『ふくこより』です。ご祝儀袋の水引を素材として使った商品です。マルアイはご祝儀袋の伝統的なデザインを打ち破り、様々なご祝儀袋を発売してきました。ご祝儀袋もマルアイを代表する商品の一つですが、通常は使用後に捨てられてしまうご祝儀袋を、違う用途でも使ってもらえるものにできないかと考えました。何度も試作を重ね、最終的に小さく可愛いサイズにして、もらった後もお守りのように持っていたり、気軽に飾ったりできるチャームタグの形になりました」(夏川さん)
「ふくこよりは、メッセージカードをつけたところも大切なポイントです。マルアイは昔から、祝儀品など、人から人へ想いを伝える商品をたくさん作ってきました。そのことは、マルアイらしさの1つとして、新しい商品を作る際にも大切にしています。ですからふくこよりも、想いを伝えるお手伝いができる商品にしました」(安村さん)
メンバーは取り扱い商品が一覧になった分厚い商品カタログを「教科書」と呼び、そこから企画開発のヒントを得ているそうだ。マルアイがこれまでに生み出してきた商品に対して、深い愛情と敬意を持って商品づくりをしている様子が伝わってくる。
封筒メーカーがまじめに作ったミニ封筒。
工場で作ることのできる最小サイズに挑戦!
そして次に2016年に発売したのが、藤壺シリーズの新商品「藤壺ミニ封筒」だ。「藤壺」封筒は、発売開始から63年目を迎えるマルアイの代名詞的な存在。白い封筒の中に藤色の内袋が入った二重封筒や定番のクラフト封筒など、これまでに400億枚以上の数が世に送り出されてきたという。日本中で愛用され、誰もが一度は利用したことがあるアイテムではないだろうか。
そんな藤壺の封筒を500円玉が入る可愛らしいサイズにしたのが藤壺ミニ封筒で、まさに「教科書」から生まれた商品である。
「マルアイはずっと封筒を作ってきた会社なので、その土台をもとに、お客様にも楽しく手に取っていただける工夫を加えた商品です。『誠実さ』もマルアイらしさのひとつだと思うんです。実用的で、派手ではなく、誠実に封筒としての機能を追究してきた会社だからこそ、できたものです」(辻さん)
マーケティング課 主査 辻加那子さん。建築建材やメガネメーカーで商品企画を経験し、2014年にマルアイに入社。書道や絵画作品を飾る展示ポケットをもとにしたロール式フォトフレーム「フォトロール」の企画開発にも携わる。
藤壺ミニ封筒は人気商品となり、2017年にはご祝儀袋の「桐壺」シリーズからもミニ祝儀袋が発売された。歌舞伎や大相撲の時に使われる大入袋や、お赤飯の塩を入れる塩袋などもミニサイズにリメイクされている。
「このミニ封筒シリーズはパロディ商品ではなく、封筒メーカーとして真面目に作った封筒です。きちんとお金が入るサイズで設計し、ちょっとした手紙を入れて贈ることもできます。月謝袋や給料袋などを見て『懐かしい!』と手に取ってくださる方も。幅広い年代の方に愛されています」(安村さん)
これらの商品サイズは、工場の機械で作ることができる封筒の中で最小に挑戦した結果だという。
「山梨に工場があるのですが、工場の方々とも相談を重ねて商品づくりをしてきました。従来は大量生産をしている工場なので、複雑な仕様のものを少量作るとなると困難な場面が多々出てきます。そのような時は商品のコンセプトを共有し、お互いに歩み寄りながら進めています」(夏川さん)
伝統を顧みて、革新を図る。マルアイをもっと知ってもらうために
最後に、今後の課題や展望について伺った。
「マルアイの商品は生活の身近なところにあって、たくさんの方に愛用していただいているんですが、それをもっと知っていただきたいですね。こんなに近くにマルアイの商品があったんだと。そのためにも、新しい商品を今後も生み出し、その存在をアピールし続けていきたいと思っています」(安村さん)
「そうですね。マルアイが作っていると知らずに使っている商品がたくさんあると思います。私もここに転職する時に、知らずにマルアイの履歴書を使っていて驚いたんです!真面目でベーシックな礎があるからこそ、新しいことにもチャレンジ出来る。それを忘れずにこれからも商品づくりに取り組んでいきたいです」(夏川さん)
「昔ながらの定番品も大切にしていきたいですね。私たちがカタログを教科書と呼んでいるように、新しい商品を作るときにも原点はここにあると思います」(辻さん)
「マルアイの魅力って、今までの歴史があって新しいことに挑戦しようという意識があるところだと思うんです。マルアイらしさを模索し続け、商品の開発に携わっていきたいです」(菅田)
長い年月の中で会社が培ってきたスタイルを大切にしながらも、伝統にとらわれず“マルアイらしい”新たな商品を生み出していくマーケティング課のメンバー。2019年にはミニ封筒シリーズの新商品のリリースが予定されているという。これからも昔ながらの定番商品を土台にした新しいヒット商品が登場し、「かわいい!」の声とともに私たちを驚かせてくれるはずだ。
提供:株式会社マルアイ https://maruai.co.jp/