創業以来、品質第一主義のもと、安心・安全にこだわった優れた化粧石鹸を製造販売し、国内最大の化粧石鹸メーカーとして発展してきた牛乳石鹼共進社株式会社。近年はボディケア、フェイスケア、ヘアケアと幅広い製品開発によって、時代のニーズに即応し、伝統ブランド「カウブランド」に加えて新ブランドをつぎつぎと発売しています。そのなかのひとつである「バウンシア ボディソープ」は、2003年の発売以来、リニューアルを繰り返しながら、美容に関心の高い層を中心に多くの消費者に支持されるブランドとして成長。現在は、贅沢なバスタイムを演出してくれる商品として、店頭でも大きな存在感を放っています。競合ブランドが絶対王者として君臨する市場で、廃番の危機を乗り越え、競合ブランドをしのぐリピート率を誇るヒット商品へと導いた開発秘話をマーケティング部主任の加藤映子さんと同じく主任の山本英子さんに伺いました。
1909年に大阪市東区清水谷(現天王寺区)において、宮崎奈良次郎によって創業された「牛乳石鹼」。小さな町工場としてスタートした牛乳石鹼は、初代社長の人柄と手腕が買われ、順調に業績を伸ばし、やがて大阪における有力石鹸メーカーの戦列に加わっていくことに。
泡立ちに特化したボディソープの先駆けとして誕生
バウンシアボディソープの歴史のはじまりは、2003年春。牛乳石鹼の主力ボディソープであるファミリー向けの「ミルキィ」に対し、20~30代女性にターゲットを絞り、豊かな泡や香りによる贅沢感を訴求した高付加価値商品として誕生した。「濃密泡でうるおいを守る高保湿ボディソープ」がコンセプトだ。
「消費者からニーズの多かったボディソープの『泡立ち』に着目した当時の担当者が、研究所のボディソープ担当者に試作を依頼したのが開発のきっかけでした。シャンプーに処方される指どおりをなめらかにする成分をボディソープにも配合してみたところ、未だかつてないほど泡立ちの良いものが完成。当時はまだこのような泡に特化した商品はどこにもなかったので、明確な差別化ができると商品化したことがバウンシアの始まりです。ネーミングの由来は、『弾むような(バウンドするような)泡』。弾む泡をイメージして『バウンシア』と名付けられました」(加藤さん)
2003年春に発売した初代バウンシア。今では、市場に出回っているボディソープの多くに、類似成分が配合されているが、これを配合したボディソープはバウンシアがはじめてだった。
バウンシアの濃密泡は、弾力が強く、洗浄時の摩擦から素肌を守るクッションの役割を果たす。肌表面や毛穴の汚れをそっと浮かして落とすから、必要以上に洗いすぎることがない。適度なうるおいをキープしながら、洗い上がりはぬるぬるせず、すすぎやすいのも特長だ。うるおいは欲しいけど、ぬるぬるして欲しくないというユーザーの微妙なニーズにも応えている。
泡立ちに特化したボディソープの先駆けとして誕生したバウンシアだが、店頭には定着したものの、追随する競合品が増えはじめたことで、次第に苦戦を強いられていく。2007年、2009年に発売された3代目、4代目バウンシアでは、香り、うるおい感の違いでチョイスできるようリニューアルするが、競合品との差別化が図れず、2品とも共倒れの危機に陥ることに。廃番寸前にまで追い込まれたバウンシアの救世主となったのが、当時入社4年目の加藤さんだった。
新卒で牛乳石鹼共進社株式会社に入社。以来、マーケティング畑一筋に歩んできた加藤さんは「お客様のニーズにマッチするものを作れば、自ずと売り上げはついて来るはず」と語る。
原点である「濃密泡」に立ち戻った結果、右肩上がりに急成長
バウンシアのターニングポイントは、加藤さんが担当となり2年が経過した2011年のこと。背水の陣で臨んだ5代目のリニューアルが契機となって、低迷していた販売実績が上り調子へと転じはじめた。
「『香り』の訴求を止め、原点である『濃密泡』に立ち戻り、アイテムをベーシックタイプのひとつに絞ってリニューアルしたことが功を奏しました。2つあるアイテムを1つに減らすということは、やる気をなくしたブランドと見られてしまうため、当初は社内でも相当な反発がありました。しかし、結果的にはベーシックタイプのみにしたことで販売店の陳列棚のスペースに空きができ、そこに詰め替えタイプではなく、ポンプタイプがよく置かれるようになったんです。若い女性はポンプタイプからトライアルすることが多いのですが、お試し感覚で手に取った方が、使ってみてその良さを実感し、リピートするという好循環ができました」。売り上げ増加の理由を加藤さんは分析する。
マーケティング部主任の加藤映子さん(中央)と同じく主任の山本英子さん(左)。加藤さんは、2009年秋発売の4代目バウンシアからメインで商品企画を担当し、ブランドシェアの拡大に挑み続けている。山本さんは、バウンシアをはじめとする牛乳石鹼製品とドラッグストア向けプチプラ化粧品のメーカーである関連会社、株式会社バイソン製品の販売促進を担当する。
バウンシアは初代の頃から、他社の競合するボディソープに比べてリピート率がずば抜けて高いことが特長だった。売り上げが堅調に伸び出してからも、「とにかくトライアル購入さえしてもらえれば、確実にリピーターを獲得できる。まだまだ売り上げが伸びるはず!」と加藤さんは歯がゆい思いをしていたという。
なんとか消費者にバウンシアを手に取ってもらえる方法はないだろうか。模索を続ける加藤さんの次の一手は、イベントや店頭で消費者にダイレクトに商品特性を訴える「泡の実演」だった。
ボディソープ初!店頭プロモーションの全国展開に挑む
「インタビュー調査の時に、実際にバウンシアを泡立てて見せると、多くの女性たちが目の色を変えて、わぁっと身を乗り出すようなリアクションをすることがありました。中には『触っていいですか?』と手を伸ばす方も。泡に対する反応を目の当たりにして、社外ブレーンから泡の実演をしてみてはどうかというアイデアが出て、やってみようということになりました」
ホイップクリームのようなキメ細かなバウンシアの濃密泡を実感してもらえるように、店頭でデモンストレーションを行うとともに、ブランドサイトでは「濃密泡の造り方」を動画でアピール。
実際に営業社員と一緒に店頭に立ってデモンストレーションを行ったという加藤さん。そのときの気づきをすべてメモし、マニュアルを整備。アルバイトスタッフでもすぐにできるようにこれをパッケージ化した。ボディソープとしては初となる店頭での実演推奨販売を全国展開し、その良さを消費者に直に訴えていった。
社内の猛反発を乗り越え、2アイテム目となるシリーズ品を発売
「1種類しかないからお店で気づかなかった」
「泡のことばかりで、香りがイメージできない」
「香りの選択肢がないから、つまらない」
順調に売り上げは伸びているものの、消費者インタビューでは、こうしたマイナス意見が出てきたことで、加藤さんは新たな気づきを得ることになる。
「ターゲットである美容に関心の高い20~30代の女性は、商品に贅沢感を求めています。贅沢感のあるバスタイムを演出するためには、どうしても香りは欠かせない要素。まだバウンシアを使ったことのない方に手に取ってもらうためには、香りのバリエーションがどうしても必要だと思ったんです。そこで、香りを楽しめるシリーズ品の商品化を企画したのですが、社内の猛反発にあいました」(加藤さん)
ベーシックタイプに絞ったことで売り上げが伸びているのに、なぜまた2つ目を発売するのか。2つそろって共倒れになるのではないか。3代目、4代目の失敗の経験から、反対意見が営業部門を中心に飛び出したのだ。
牛乳石鹼総合研究所で製品開発者とミーティング。マーケティング調査の結果に基づく、消費者ニーズを開発担当者に的確に伝え、処方をリニューアル。試作、評価を繰り返しながら製品を開発していく。
伸びている時にこそチャレンジをしていかなければ、チャンスを逃してしまう。低迷してからでは遅い。そう感じた加藤さんは、逆風の中、猛反対する営業部門を説得していく。
ベーシックタイプの売り上げを落として共倒れになることを防ぐために、ベーシックタイプの存在感を維持しながら、2つのタイプの差異感をはっきりと打ち出すことに。こうして、青とピンクの全く異なるカラーのパッケージを採用した2種類の6代目バウンシアが誕生することになった。
2015年秋に発売した6代目バウンシア。ベーシックタイプは青、香りを楽しむタイプはピンクと色分けし、それぞれの違いを明確に打ち出した。
リピート率の高さは、商品に対する満足度の高さの証
現在のバウンシアは、2017年春にリニューアルされたもの。濃いピンクのパッケージのシリーズ品は、個性を際立たせ過ぎた故に、バウンシアのシリーズ品としてユーザーに認識されていないと考えた結果、廃番となる。代わって登場したのが、青を基調とした「エレガントリラックスの香り」だ。
同品は、発売前に行われた香りテストで、従来品比144%のリピート意向、パッケージテストでは従来品比194%の購入意向という、驚異的な数字を叩き出す。
次々と新製品が投入され、競合ブランドがひしめき合うボディソープ市場は、売り上げが伴わない商品は店側に見切られ、棚落ちすることも珍しくない競争激しい市場だ。そんな中、TVCMなどマスメディアを使ったプロモーション活動を行っていないバウンシアが、長く生き残り、リニューアルごとに大きく成長してこられたのはなぜだろうか。
「発売前、発売後の様子を見ていると、良いことも悪いことも含めてさまざまな仮説が出てくるので、それを検証するために、たくさんのユーザーの声を拾おうとインタビューを行いました。その結果、次はこんなアクション起こすべきという方向性が見えてきたんです。そうしてリニューアル方針を固めていきました」(加藤さん)
2011年の5代目リニューアルから、売り上げが右肩上がりに。2017年上期には、ボディソープ市場で7位に上昇。更なるシェア拡大を目指す。
「リピート率が高いことがバウンシアの特長。泡立ちの良さや保湿力など、他と比べてもずば抜けて良いと感じてもらえると中身には自信を持っていましたので、一度使ってもらえれば必ずリピートにつながると、店頭でのデモンストレーションやサンプリングに力を入れました。それに加え、ターゲットにマッチするユーザーからのクチコミ力が後押しとなりました。特に、化粧品のクチコミサイト@cosme(アットコスメ)のランキングで受賞したことも大きいですね」(山本さん)
現在のバウンシア。2017年春に、バウンシアブルーを基調とした上質感、統一感のあるデザインにリニューアル。より注目されるように@cosme(アットコスメ)のランキングシールを貼って店頭に並べた。
2018年3月現在、@cosmeのバウンシアのページには、4200件を超えるクチコミが並ぶ。クチコミがクチコミを呼び、そこにバウンシアのファンとなるリピーターが加わっていく。リピート率の高さは、商品に対する満足度の高さの証でもあるようだ。
「赤箱」「青箱」に代表される石鹸のような、手頃で安定した商品づくりで、生活者のベーシックなニーズを満たすことを、これまで社是としてきた牛乳石鹼共進社。そこに「豊かさ」や「癒し」、「心の安らぎ」といった「付加価値」という新しい風を吹き込んだのが、マーケティング部の女性社員たちだ。
牛乳石鹼を代表する「赤箱」「青箱」、ミルキィボディソープに次ぐ商品として、勢いを増すバウンシアをいずれ同社の屋台骨を支えるようなブランドへと成長させていくことが、彼女たちの目下の目標だ。加藤さんは間もなく産休に入るが、子育てしながら働ける制度が整備されている同社では、仕事と家庭を両立させている女性社員も多い。復帰後も引き続きバウンシアのシェア拡大に取り組んでいきたいと意気込む。
「バウンシアは右肩上がりですが、実は最近、若い世代の人たちに『赤箱』もよく売れているんです。安くて手頃でトライしやすいことに加え、洗顔に石鹸を使うということが新しくて魅力的な価値として受け入れられているようです。私たちは、ボディケアやヘアケア、フェイスケアといった新しいカテゴリーで、お客様のニーズに合った高品質な商品をお届けしていくことも大切にしていますが、当社はやはり石鹸No.1の会社。社名に『石鹼』という言葉を冠している以上、石鹸文化を継承していく努力も同時に続けていかなくてはいけないだろうと思います」(山本さん)。
石鹸で積み重ねてきた「品質」と「信頼」という揺るぎない原点があるからこそ、彼女たちは独創的な付加価値創造に挑戦していけるのかもしれない。
提供:牛乳石鹼共進社株式会社 https://www.cow-soap.co.jp/
バウンシアブランドサイト http://www.bouncia.jp/