第6回
創業時から受け継ぐ自由な社風のもと、
自然体での取り組みがソニー流のやり方
ソニー(東京・港区)
「ものづくり大国」日本の一翼として、エレクトロニクス分野で世界のトップランナーとして走ってきたソニー。業種がら、男性エンジニアが中心の職場というイメージを持つ方が多いかもしれません。しかし、ソニーは自由な企業風土のもと、能力と素質のある人には性別・国籍に関わりなくチャレンジの機会を与えてきた会社です。多様性を受け入れ、お互いの違いを認めそれを活かすことのできる組織文化がそこには感じられます。人事センター採用部 1課 統括課長の浅井有希さんに、これまでのご自身の歩みと、等身大の女性活躍推進の様子についてお聞きしました。
ソニーはいまから約40年ほど前、1973年に初の女性課長が誕生し、6年後には女性が初めて海外に赴任するなど、早くから女性活躍の先行事例を作ってきた企業だ。2003年には女性の取締役と執行役が誕生。2005年には、社員プロジェクト「DIVI@Sony」。を発足。そして組織的にダイバーシティ推進を加速するため、2008年に専任の「ダイバーシティ開発部」を設立。近年では、「NICES女性活躍ランキング(日本経済新聞社)」で2年連続(2014年、2015年)第1位を獲得するなど、数々の評価で上位にランクインしている。こんなにも先進的な企業風土はどこからもたらされるのだろうか。その源流を探るべく、人事部で採用部門の統括課長を務める浅井有希さんに、ご自身のこれまでのキャリアから話を始めてもらった。
大学で情報工学を学んだ浅井さんがソニーに入社したのはバブルの絶頂期。技術部門では数少ない女性の採用だった。入社当初は品質保証部門に配属された浅井さんだが、4年後には念願の商品設計部門へ異動する。
「あのころ、はじめて開発された商品が世の中に出ていく過程を目の当たりにできたことは本当に貴重な経験でした」。
ものづくりの面白さに目を輝かせ夢中で取り組む若き日の浅井さんに、会社も次々とチャンスを与えていった。テレビ放送のアナログ配信からデジタル配信への移行準備が進められていた1998年頃、浅井さんは放送局とメーカー各社によるデジタル放送準備のための共同プロジェクトにメンバーとして抜擢された。
「当時まだあまり経験のなかった私なのに、よく私にソニーの代表としてのチャンスを与えてくれたなと思います。」。
国内主要メーカーの技術者が集結する全部で15人ほどのプロジェクトチームだったが、女性は浅井さんただひとり。しかもまだ若手だったのでチームの中でも目立つ存在だった。他のメーカー社員から「女性をこういう場に送り出すとは、ソニーはすごいですね」と言われた。
「社外の方と一緒に仕事をすることで、他のメーカーや放送局の方々と私たちソニー社員の考え方や視点の違いを知ることができたのはとても貴重な経験でした。あのときの経験がその後の商品づくりに活きています」と浅井さんは当時を振り返る。
男性が大多数を占める業界で女性エンジニアとして活躍をしてきた浅井さんだが、いわゆる「ガラスの天井」と呼ばれるように、女性であるために思うようなキャリアを積めない、というジレンマを感じたことはなかったのだろうか。
「女性とか男性とか、あまり意識したことがないですね」。
「性別に関わりなく、その人が出来るから任せる、というのが会社のやり方。ただ、女性であっても容赦なく厳しい、という側面もありますね」。
男女分け隔てなく扱われるのがソニー流だというのだ。
しかし、女性として、そのような環境がときに辛くなることもあるだろう。
かつて浅井さんがデジタル放送の立ち上げに関わっていたころ、当時の上司から差別はしないが、区別はすると言われたことがある。女性だからと差別するのでもなく甘やかすのでもない、しかし男性と女性の違いを理解し、女性にとって必要な配慮はするということだ。
「周囲の方が女性としての私を理解し、気遣ってくださっているという土台があったからこそ、いまの私があるのだと思います」と浅井さんは言う。
女性エンジニアとして、デジタル放送受信機や録画機能付きテレビなど数々の新商品開発に携わるとともに、男性エンジニアたちをまとめるマネージャーの役割をも果たしてきた浅井さん。そんな彼女にキャリアの転機となる出来事が訪れた。
プロジェクトマネージャーに抜擢されたものの、そこで思うような成果が出せなかったのだ。浅井さんにとって、これまでにない苦い経験だった。
これをきっかけに、「自分の強みとは何だろうか」とあらためて考えるようになった。「もっとスキルをつけて、新しいことにチャレンジしたい」。という思いが生まれた。そして「人の教育」に携わりたいと強く思うようになった。みずから社外の勉強会などにも積極的に参加するようになっていった。
そのような浅井さんに、会社はまたしても惜しみなくチャンスを与えた。人事部門へ統括課長として異動することになったのだ。
現在浅井さんは、人種・国籍・性別に関わりなく優秀な人材を採用する役割を担っている。彼女がこれまで培ってきたリーダーとしての経験と知見がここでも活きている。
ソニーでは2005年からDIVI@Sonyという取り組みを始めた。これは女性社員の活躍を推進するためのさまざまなプロジェクトの総称だ。
たとえば「タウンホールミーティング」では、平井社長みずから女性社員に直接語りかけ、女性社員からのさまざまな質問に直接答えることで、「女性活躍推進」への熱意を伝える。また、ソニーで初めての女性執行役員も登壇し、女性社員と直接語り合うことで、女性のモチベーションを向上させている。ご自身、3人の子どもの育児と仕事を両立しながらキャリアを重ねてきた女性だ。
女性の部下を持つ役職者へのケアも怠らない。「統括部長ワークショップ」では、女性の部下を抱える部長たちが集まり、悩みや課題、そして解決策を共有する。ひとりでは解決できないことも、情報を共有することによって相互に助け合い、気づきを得てもらおうというのがねらいだ。
そして、「女性リーダー育成塾」では社内選抜を通過した女性たちが、リーダーとしてのスキルとマインドを学ぶことができる。自律的なキャリア形成への意識を高め、リーダー職に昇格することへの不安を払拭していく。また海外子会社に、女性社員だけの視察が行われることもある。海外では概して管理職・役員に占める女性の割合が日本より高い。そのような環境下で活躍する女性リーダーたちと交流することにより、国内の女性社員たちはリーダーになることへの自信を深めて帰国する。
このように、ソニーの主な女性活躍推進の取り組みは人と人とのコミュニケーションに重きを置いているものが多い。人と人が語り合い、理解しあい、そして人から人への言葉かけによって女性が成長し活躍できるようにプログラムが組まれている。
差別でもなく、特別扱いでもない。当事者である女性たちがくすぐったさや居心地の悪さを感じる必要などまったくない、自然体での女性活躍推進がソニーのやり方のようだ。この会社が創業時から持っている自由で風通しのよい社風と、ひとりひとりがお互いの違いを理解しあい、力をあわせて物事を成し遂げるという企業風土が女性活躍推進の取り組みにも活かされているのだ。
多様性を受容し、人を尊重する姿勢こそがタイバーシティ(多様性)推進の目指すべきひとつの着地点かもしれない。
ソニー株式会社 人事センター
採用部 1課 統括課長
浅井 有希
(Report 大橋智子)
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