Special Reprt

第15回

一人ひとりのライフスタイルは違っても、

社員同士が協力して働ける風土づくり

シーボン(神奈川・川崎)

自然豊かな場所にたたずむシーボンのメインオフィス。洗練された会社の印象を受ける。

今回お話しをお聞きしたのは、女性たちが働きやすい職場づくりを目指すES向上推進室のマネージャー・稲葉理子さん。そして、現在、子育てをしながら時短勤務をしているイベントプロモーション課のマネージャー・中谷愛子さんです。従業員のうち93%を女性が占めている株式会社シーボンでは、管理職から役員まで幅広い女性登用が行われています。女性活躍推進が始まったきっかけから、風土づくりの工夫、『女性社会』で働く彼女たちの本音に迫りました。

 ライフステージに合った社内報を発行し、女性たちの不安を払拭

 ES向上推進室マネージャー 稲葉理子さん

多くの女性が働くシーボンでは、2008年のマタニティー制度導入を皮切りに、育児休業や時短勤務の延長、育児や介護で休職した社員が同じ条件で復帰することができるウェルカムバック制度の導入などを行い、女性が長く働くことができる職場づくりに取り組んできた。

ES向上推進室が立ち上がったのは、2013年12月。以前は人事部門の企画として女性活躍推進の取組が行われていたが、全国に100以上の店舗があるため、思うように社内浸透が成されなかった。そういった課題をクリアにするため、専門の部署としてES向上推進室が設置されたのである。

社内報には、全国の社員のインタビュー記事が掲載されている。社員たちのリアルな声と姿は、自身のロールモデルとなり、今後の働き方を考える上でのヒントを受け取ることができる。

「社員が働きやすい風土づくりのために、これまでに様々な取り組みを行ってきました。そのひとつに社内報『ワーキングスタイル』の発行があります。子育て、介護などそれぞれのライフステージに合わせた紙ベースの社内報を発行しています。子育てで休職中の社員に送付している社内報では、同じように産休・育休を取得している全国の社員がどのように育児をしているか、不安を乗り越えているのかなど、当事者の声を紹介しています。復帰後には色々な働き方がありますが、育児と仕事を両立している人の働き方、介護と仕事を両立している人の働き方など、活躍している社員を取材して写真と共に掲載しています。この取り組みに対して社内アンケートでは、『不安を抱えているのが自分だけではないと分かり安心した』という声がありました」(稲葉)

 店舗勤務の社員が、未来の社長かもしれない

「C’BON Family Day(シーボン. ファミリー・デイ)」には社員の家族が店舗に大集合する。実際に働いている職場を家族に見せることができると同時に、社員同士の理解が深まるきっかけの場にもなっている。

またシーボンでは、女性社員の役員登用も積極的に行なわれている。現在、代表取締役である金子靖代社長も、もともとは店舗で販売に携わっていた社員の一人だった。

「金子社長は、最初は通常の店舗に入社し、数々の活躍が認められて管理本部長へ昇進、その後、副社長を経て2005年に社長に就任しました。本人は『まさか私が』と言った感じだったそうです。金子社長のキャリアは、働く女性社員たちのモチベーションアップにも繋がっています。もともとは自分たちと同じだった人が、いちばん上までキャリアアップしたのですから。社長自身も、社員がチャレンジしたいと思ったらできる限りそれを実現させたいという考えの持ち主です」(稲葉)

同社では「夢を形にする」というテーマの研修を毎年開催し、役職に関係なく、役員の前で自分がチャレンジしたいことをプレゼンテーションできるチャンスが設けられている。

特別にあつらえた制服を着て、「小さなフェイシャリスト」に変身する子どもたち。お母さんに教えてもらいながら、マッサージに挑戦。

「2015年から始まり、全国の店舗で行なわれている『ファミリー・デイ』という取り組みも、美容社員が役員の前でプレゼンテーションした企画です。社員のお子さんやご主人を店舗に招待し、彼女たちが普段どんなふうに仕事をしているのか見てもらうための仕掛けづくりをしています。今までお母さんが仕事に行くことを嫌がっていたお子さんが、『お母さんがシーボンに行くから私も保育園に行くの頑張ろう』と言ってくれるようになったという事例もあります。家族が理解してくれることで、仕事へのモチベーションも高まり、改めて家族に感謝する機会にもなっているようです」(稲葉)

ファミリー・デイの取り組みの中では、社員がお互いに感謝を伝える会を準備し、異なるライフスタイルの社員同士が支え合える風土づくりを実現しているようだ。

 育休復帰後の後ろめたさ。支えてくれたのは、同じ部署の仲間たち

イベントプロモーション課マネージャー 中谷愛子さん

稲葉さんにお聞きした、女性活躍に関する全体的な取り組みのお話を踏まえ、実際に現場で活躍中の中谷さんにお話を伺った。新卒で美容社員として入社し、2年間店舗で働いた。その後、支店事務の経験を経て、現在はイベントプロモーション課のマネージャーとして勤務している。

「この業界に興味を持ったきっかけは、母や姉が美容関係の会社に勤めていたことです。たまたま同じ学校の先輩がシーボンに入社し、先生に勧められて入社を決めました。入社した時は、店舗で販売やアフターケアを行っていましたが、現在はシーボンを知らない新規のお客様へのPR活動としてイベントを企画し、実施しています。自分が新卒の時から愛用している大好きな化粧品をお勧めし、実際に店舗に来ていただいて商品の購入に繋げていく仕事です。自分のアプローチによって、一連の繋がりができた時は嬉しいですね。弊社の化粧品は、直接シーボンの直営店で購入していただく必要があります。仕事における難しさは、イベントでお客様と話せるわずかな時間でシーボンの魅力を伝えて、来店に繋げることです」(中谷)

中谷さんは、もうすぐ2歳になるお子さんの育児をしながら定時よりも1時間早く退社する時短勤務のスタイルを選択している。育休中や復帰直後の気持ちをこのように振り返る。

「産休・育休などで長く会社から離れてしまうと、社会との繋がりがなくなり不安な気持ちになってしまうものですが、社内報が定期的に届くことで自分以外の産休を取っている社員の様子や、次に産休を取るスタッフが何名いるという情報も分かり、自分と同じ環境の人がこんなにいるんだ!と感じました。復帰後には子どもと離れる不安もありましたし、出産する前の感覚で仕事ができるか心配でした。私が産休に入る前に社内のシステムが変わり始め、会社としても激動の時代だったのです。復帰してから数ヶ月間は周りのスタッフに教えてもらうことばかりで自信を喪失し、『私は仕事をやってていいのかな……』と落ち込んだこともありました。復帰早々に子どもの病気が長引き、1週間くらい会社を休んだ時には後ろめたさでいっぱいでした。しかし、子育てをしている先輩スタッフや同僚たちが『これはお互い様だから』と理解してくれて、とても励まされました」(中谷)

女性がイキイキと働ける会社をめざす

まるで美術館のようなオフィスは、イキイキと働く女性たちのモチベーションにも繋がっている。昼休みには眺めの良い屋上に出て、同僚と語り合うこともあるそうだ。女性の比率が9割を占める社内で、女性社会ならではの悩みはないのだろうか。会社のイメージについてお二人に伺ってみた。

社内のいたるところに女性が働きやすい工夫。広いデッキから多摩の丘陵が目に入る

「女性社会のイメージとして、社員同士の関係がジメジメしているのではないか?などと聞かれることもあるのですが、弊社の女性社員たちはみんなサバサバしている印象で、陰湿な感じはまったくないですね(笑)。全員が仕事に向かって突き進んでいるイメージです。また、男性が前線で仕事をし、女性社員がバックアップをするという会社ではないので、性別関係なく活躍することができています」(稲葉)

社員の健康を考えて作られる社食は、一日の楽しみのひとつ。会社の中には社員がホッとできる場所がいくつも設けられている。窓から光が差し込む気持ちの良いカフェテリアで、女性社員同士の会話も弾む。

「会社内の至る所に、女性が働きやすい工夫がされています。その一つが社食です。窓の外には季節の花が見え、そろそろ桜を楽しむことができます。メニューは社員の健康を考えた減塩食。濃い味が好きな私にとってはありがたいです(笑)。リーズナブルな定食やサラダバーもあるので、栄養バランスの整った、美味しい食事をいただくことができます」(中谷)

オフィス内は“女性が綺麗に見える”というコンセプトのもと設計され、全国の社員が研修で訪れた際に、仕事に対する意識を高めるきっかけにもなっているという。

育児の次は、介護のバックアップが課題

社員一人ひとりに異なるバックグラウンドがあることを理解し、より働きやすい回会社を目指す。次の課題はセカンドキャリアを迎える社員が長く働くことができる職場づくり。最後に、それぞれの立場から今後の課題と展望を語ってもらった。

「社員の意識づくりをしていく中で、価値観は人それぞれ違うので難しいと感じる場面はあります。現在、20年前よりもだいぶ働きやすい環境になっていますが、子育てや介護と仕事を両立していくことは、みんなで取り組んでいくことが重要なので、一生懸命に施作を考えて導入しています。また、これから家族の介護に向き合う社員が増えてくるので、セカンドキャリアを迎えた時にどういうふうに働くのか、制度を利用している社員から情報を集め、社内報で発信していく予定です。風土づくりには時間がかかるので、今から始める必要があります。仕事と家庭のことにバランスを持って働ける社員を増やし、10年後も『シーボンで働いてよかった』と言われるような会社づくりを進めたいです」(稲葉)

「私の部署にもこれから結婚、出産を経験する女性もいるので、子育ての悩みなどを分かり合えるチームにしていきたいです。自分の子どもに対しても、平日は一緒に遊んであげられる時間も短く申し訳なく思う時がありますが、働いているママの姿を見て良い影響を与えられたらなと思います」(中谷)

 

(Report 佐藤愛美)

<株式会社シーボン>

設立:1966年1月24日
本店:東京都港区六本木七丁目18番12号
メインオフィス(本社):神奈川県川崎市菅生一丁目20番8号
従業員数:1,159名 ※パート社員は含まず(2016年3月31日現在)
http://www.cbon.co.jp/company/about/outline.aspx