AI人材争奪戦が過熱 年収3千万提示の募集も

人工知能(AI)などに精通する高度なIT(情報技術)人材の獲得競争が過熱している。デジタル人材の初任給引き上げなど好待遇で募集をかける企業が増えている。しかし、ただ待遇だけで必要とする人数の確保は難しい。技術者を擁するスタートアップ企業のM&A(合併・買収)や社内研修など、採用や育成の手法を多様化し人材不足に対応する考えだ。(日経06-04)

 

あらゆる産業にデジタル化の波が押し寄せる中、AIの技術者やデータ分析の専門家である「データサイエンティスト」、サイバーセキュリティー人材などの需要は高まっているが、供給が追いついていない。経済産業省によると、IT人材の不足数は18年時点で22万人に達する。同省の試算では、先端IT人材に絞っても30年に55万人足りなくなる恐れがあるという。

 

ソニーはデジタル分野で高い能力を持つ新入社員の年間給与を最大2割増しにすることに決めた。ここ2、3年で専門職に高い給与を支払うことにためらわない会社が増えたからだ。

厚遇で外部から人材を呼び込む動きは広がる。NTTドコモはAIなどの専門性を持つ人材に対し、最高で同社の平均年収の3.4倍にあたる3千万円を提示し、今夏に社外から募集を始める方針だ。転職市場でもIT人材は昨年より2割ほど賃金が上昇しているという。

M&Aを活用する動きも出てきた。京セラコミュニケーションシステムは1月、AI関連技術を手がけるスタートアップ企業を買収した。人材や技術を取り込みサービスや製品の強化につなげる狙いがある。電通もAI開発のスタートアップを買収した。AI技術を持つ会社を子会社として持ち、優位性につなげる狙いだ。

すでに社内にいるIT人材を高度化しようと、研修を実施する企業も増えてきた。システム開発の伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)は今年3月から選抜したエンジニア向けにさらに高度なデータ分析やAI開発などの技術を学べる研修を始めた。東京海上ホールディングスも保険ビジネスに活用できる「データサイエンティスト」を養成するプログラムを開講している。ダイキン工業は大阪大と組み社内講座を設けており、20年度までにAIなどに詳しい人材を1000人育成する方針だ。

しかし、AI人材を確保できても経営層のITへの理解度が低ければ活躍の場を提供できず、人材が定着しないという課題もある。AI人材が常に最新の技術を学べるよう、技術者に兼業や副業を解禁するといった働き方の見直しもセットで取り組む必要がありそうだ。