自宅がオフィスに。VRが拓く新しい世界

ドラえもんのひみつ道具『どこでもドア』が現実になりそうだ。人類の科学技術の発展を後押ししたひとつが、「遠くの場所に早く行きたい」という欲望だ。19世紀初頭に鉄道、20世紀には飛行機が発明され、人の移動が簡単になり、文明が発達した。だがインターネット上に誕生した仮想現実(VR)空間にアクセスすれば、移動しなくても現実に人に会っているかのようなコミュニケーションも可能になった。「人と会うために移動する」という行動がVRの登場で崩れ始めている。(日経05-08)

 



VR空間にオフィスを構えて急成長する不動産会社がある。米国のeXp Realtyだ。社員は自宅でマイク付きのヘッドホンをして通常のモニター画面を見て、アバターとなって、VRオフィスに”出社”し、会議や研修など仕事をこなしている。2013年に株式を公開し、6年間で株価は10倍になった。斬新なビジネスモデルが話題を呼び、3年前は1000人足らずだった不動産販売員の数は現在では1万8000人になった。18年12月期の売上高は前の期比3.2倍の5億ドル(約555億円)と米不動産業界で最も成長の速い会社として注目を集めている。VRオフィスには賃料や交通費がかからないだけでなく、通勤にかかる時間も不要というメリットがある。eXp Realty社は浮いた費用を販売員の研修や販売手数料を上乗せして事業拡大につなげている。

 

日本でもVRオフィスが稼働し始めている。コンテンツ制作のHIKKY(東京・渋谷)は、18年5月からVRオフィスを構え、仕事ができる環境を整えた。同社で働く男性は、自宅でVR機器を装着し、ボタン一つで出社し退社している満員電車の通勤から解放され、快調に仕事をこなし息子を幼稚園に送迎したり、夕食を用意したりするなど家事を受け持つこともできるようになった。同社ではVR出勤が6人ほどいるという。

今後、VRオフィスは働き方の多様性を生み、新たな市場開拓になるだろう。