これからは転勤を断れる!?転勤制度の見直し進む

転勤を経験する人は年60万人に上る。親の介護や育児と仕事との両立を迫られる現代の会社員にとって転勤の負担は重くなっている。社員の75%は転勤を希望していないというデータもある。不公平感を生まずに人材をつなぎ留めようと、企業が転勤制度を見直し始めている。(日経07-17)

 

 

労働政策研究・研修機構の調査では、従業員300人以上の企業のうち約80%は会社主導で転勤を決めている。リクルートワークス研究所によると、17年に転勤を経験した人は約60万人。20~39歳が6割を占め、そのうち63%が単身赴任だ。金融などでは同じ総合職でも転勤のある社員と転勤のない地域限定社員に分け、給与に2割程度差をつける企業が多い。地域限定社員では格下の印象となり、キャリアップは難しいと、仕方なく転勤を受け入れるケースも多い。

AIG損害保険は1月、会社都合による転勤を原則廃止した。今までは営業など約4千人の社員が3~5年ごとに全国を異動していたが、今後は2021年9月末までに好きな地域で働けるようになり、その後も本人が望まない限り転勤はない。転勤が多い保険業界では珍しい踏み切った制度で、転職者、就職希望者が例年の10倍に増えたという。

人材をつなぎ留めるため柔軟な制度を導入する企業も出てきた。

カゴメは、毎年の上司との面談時に「転勤なし」と「希望地への転勤」を希望できるようにしている。3年間有効で、一人2回まで選べる。子どもが幼い間は転勤を避けたり、配偶者の転勤に同行したりといった選択肢を持てる。

キリンビールは育児休業からの復帰後に、希望地域で働ける制度を20年から本格運用する。配偶者との同居が可能で親族の支援が受けやすい地域などを選べるようになる。最大5年間は転勤を断れる制度もある。

大和ハウス工業は内定時に初任地を先着順で選べるようにし、内定者の囲い込みに成功した。

 

ただ社員の希望を優先すると勤務地は東京や大阪に偏りがちだ。転勤がなくなると人員配置が難しくなり、転勤者が偏ると不公平感が生まれる。そこでAIGは19年から、転勤希望者で希望地以外に転勤する際には従来より5割高い住宅補助と月額20万円の手当を支給。転勤廃止で引っ越し費用や社宅の維持費が減り、浮いた原資を手当に回す。地方で新卒や中途入社の採用を増やして人員のバランスも取る。

社員のつなぎ留めと事業の維持・拡大という背反しかねない課題を前に、企業側も今までになかった工夫が求められている。