「何歳まで雇用」の議論をなくし、年齢のダイバーシティを

日本では70歳継続雇用の議論が盛り上がっている。労働力不足の解決と社会保障負担の軽減を目指した対策として、高齢者雇用は有効であろう。しかし、長寿国日本、人生100年時代と叫ばれる中、年齢という線引きは必要であろうか。

 

 

OECD東京センター所長村上由美子さんが、ウォール街で勤務していた時代、ある訴訟が身近で起きた。年齢差別により、昇進機会を不当に与えられなかったと、50代の男性が会社を訴えたのだ。男性の主張は結局、立証されなかったが、年齢差別に敏感な米国社会を実感させられたという。(日経02-11)
高齢者雇用には様々な問題がある。例えば、正規雇用から非正規雇用になると、仮に業務内容に大差がなくても報酬が激減する。肩書も格下げになるので士気は低下。個々の能力とは関係なく、一律に60歳など年齢での線引きとなり労働条件が一気に劣化する。年齢差別を違法として、米国以外に英国やオーストラリアなどは定年退職の制度自体がない。昇進や報酬は、年齢とは無関係に、個々の能力や実績に基づいて決定されるべきであるとの考え方だ。
もし、日本もそうなったら?
まず「何歳まで雇用」という議論は無くなる。企業のニーズと個人のスキルという需要と供給が労働市場の流動性を高め、転職が増えるだろう。そして若くても実力者なら昇進しやすく、高齢者でも需要の高い技能を持つ人は報酬が下がりにくくなる。企業レベルでも、経済全体でも、人的資源配分の最適化が進み、年齢のダイバーシティ(人材の多様化)が期待できる。もちろん、「同一労働同一賃金」の導入や、年功序列の廃止など雇用慣行の見直しも必要だ。同時に、生涯学習の機会提供や、一時失業者に対するセーフティーネットの拡充も重要である。
定年廃止はこうした労働市場改革の糸口に成り得るかもしれない。抜本的な変革なので時間がかかるかもしれないが、定年廃止に向けての制度調整を始めるべきである。

 

長寿国日本の高齢者は、健康状態も教育レベルも他国より比較的高い。年齢のダイバーシティを受け入れるために、まずは年齢という物差しをなるべく使わないことが重要かもしれない。