カフェインレスコーヒー開発を率いるのは
育休、復職、時短勤務の女性リーダーだった

UCC上島珈琲株式会社(以下、UCC上島珈琲)は、コーヒーや紅茶など飲料を中心としたメーカーです。世界初のミルク入り缶コーヒー『UCCミルクコーヒー』を販売後も、数々のヒット商品を手がける一方で、黒糖ミルク珈琲を看板メニューに掲げる上島珈琲店を全国に113店舗展開しています。コーヒーの成分であるカフェインは、眠気覚ましや利尿作用、集中力アップといった効果があるとされますが、妊娠中の方など、カフェイン摂取を気にする人もいます。そこで家庭用にと開発されたのが『UCC おいしいカフェインレスコーヒー』です。カフェインレスコーヒー市場で、シェアを確立しつつある同シリーズの開発に携わる、製品開発部の梨本陽子担当課長に話をうかがいました

2000年に入社した梨本さんは、社内公募を利用してマーケティング本部に異動。以来、マーケティング一筋だ。

カフェィンレスの研究開発に長い歴史あり

カフェインレスコーヒーは、日本のコーヒー市場において現在も構成比わずか0.6%と規模は小さいながらも、毎年成長を続けている市場だ。UCCは以前からカフェインレスコーヒーの研究開発に取り組み、2012年には天然の低カフェインコーヒー『Laurina〇→R』の栽培・収穫にも成功している。しかしながら、『Laurina〇→R』の販売によって、カフェインレスコーヒーの市場が一気に拡大されるということには至らなかった。

「一般的なコーヒーの抽出液のカフェイン含有量は、玉露など茶類の3分の1程度にしか過ぎません。日本人は昔からお茶などに親しんできたので、海外の方ほどカフェインに抵抗がないとも言われます。そのことが、市場が小さい原因の一つだと考えられています」

そう話すのは、97%カフェインをカットした『UCCおいしいカフェインレスコーヒー』の開発に携わっている梨本陽子さんだ。

カフェインレスのライバルはカフェインレスではない

以前からカフェインレスには一定の需要はあったものの、生産の段階でカフェインを除去するため、コーヒー本来の香りやおいしさが楽しめないという消費者の不満が顕在し、通常のコーヒーの補完的な立場からなかなか脱却できていなかった。そこでカフェインレスコーヒーの認知度を高めようと、カフェインの除去方法から見直した家庭用向け製品を強化することになった。

コーヒーカップやカトラリーなどは、日本を代表するインダストリアルデザイナー・柳宗理の作品を使用。「日本の喫茶文化」を大切に、リラックスした空間を提供する上島珈琲店(写真は青山店)。

 

カフェインレスコーヒーは、実店舗である上島珈琲店でも提供されている。店舗用と家庭用では用途が違うため、それぞれに工夫がなされているが、どちらも実際に飲んでみると、通常のコーヒーとの差を感じない。コーヒーを注いだカップを口元に近づけるとほわっと香りが立つ。味に奥行きも感じられる。カフェインレスコーヒーだと知らずに飲んだら気づかない人も多いだろう。
「カフェインレスとしての味を追求するのではなく、カフェインのある通常のコーヒーに近づけるというコンセプトで開発されています。カフェインレスでもおいしいではなく、通常のコーヒーと変わらない味を目指したんです」(梨本さん)。

無糖PET900ml、ドリップコーヒー8Pなどシリーズは全10種類。

 

味の決め手は、二酸化炭素抽出法にある。『Laurina〇→R』のようにカフェイン含有量の少ない生豆を使わない場合、コーヒー豆に含まれるカフェインを取り除く必要がある。今までは、生豆を水に浸すという水抽出法が一般的だった。海外では薬剤を使った抽出法が用いられることが多いが、日本では禁止されている。水抽出法は低コストであり安全性も高いが、カフェインと同時にコーヒーの味や香りのもとになるクロロゲン酸類が50%も減少してしまう。

そこで選ばれたのが、Co2でカフェィンを取り除く二酸化炭素抽出法だ。クロロゲン酸類を損なうことはないが高コストが悩みで、業界でも導入しているところは少ないという。

社内のカフェインレスに対する意識が変わった

梨本さんが同シリーズで担当したのは、ペットボトルだ。同シリーズの第一弾の販売がスタートしたのは2015年9月。10月に育児休暇を経て復職した梨本さんは、約半年間の開発期間を経て、ペットボトルを送り出した。

ペットボトルはブラジルとコロンビアを中心としたブレンドで、焙煎方法にもこだわった。その強いこだわりは、UCC上島珈琲の社内体制が下支えになっている。

研究所に依頼した試作品が上がってくれば、メンバー全員で試飲し、改良を重ねていく。流行のカフェにでかけ、味のトレンドを探ることも多い。

 

社内にはコーヒーアドバイザーという独自の資格制度があり、その資格取得者の中から、さらに厳しい条件をクリアした社員だけが、さらに上の資格を目指した海外研修に参加できる。梨本さんは、ブラジルで講義を受けてコーヒー鑑定士の資格を取得した数少ない社員の一人だ。

そんな「コーヒーに真面目な人ばかりの会社」だからこそ、カフェインレスコーヒーは、通常のコーヒーよりも味が落ちるという認識だったが、同シリーズが開発されたことにより、社内の空気も変わった。ペットボトルは前年比で約2倍に売上が伸び、家庭用カフェインレスレギュラーコーヒーにおいては、シェアの5割を占めるまでに成長している。

『UCCおいしいカフェインレスコーヒー』の販売がスタートした2015年前後から、家庭用カフェインレスレギュラーコーヒーにおけるシェアは年々拡大中。

 

カフェインレスだからこその広がり

アメリカではコーヒー市場の約13%をカフェインレスが占めているが、日本はやっと0.5%(2016年度)にまで伸びた程度だ。だからこそ開拓の余地があると、社内の期待も大きい。

例えば、今までは業務用としてのニーズが高かったが、老人ホームやカフェインレスコーヒーを飲む習慣のある海外からの利用客が多い外資系ホテル、それからドラッグストアやベビー用品専門店など販路も広がった。さらに子育て向け情報誌主催のイベントに参加するなどプロモーションも今までとはひと味違う広がりを見せている。

横浜のたまひよファミリーパークにも出展。カフェインレスコーヒーの試飲やサンプルプレゼントなどで女性客の人気を集めた。

 

陣痛タクシーに賛同し、マタニティギフトに製品提供を行ったり、東京メトロの優先席にマタニティ向けの広告を出し、認知度アップを目指している。

 

梨本さんが所属するマーケティング本部は女性社員の比率も高く、『UCCおいしいカフェインレスコーヒー』の開発がスタートした当初は、チーム全員が女性。女性目線を反映してヒット商品をという思いでチーム編成がされ、おしゃれなボトルが印象的な『BEANS&ROASTERS』や、紅茶とハーブでリフレッシュする『パラダイスティー』なども手がけてきた。

梨本さんはそんなマーケティング本部で管理職に就いたが、現在は子育て中で時短勤務だ。いかに効率的に仕事を進めるかだけでなく、気をつけていることがあるという。

「よく女性は感情的に、男性は理論的に物事を判断すると言われます。うちのチームは女性が多いので、『いいね!』という感覚で意見が一致することが多いです。でも感覚だけでは説明不足。なぜいいのかを理論的に説明するよう心がけています」

梨本さんの夢は、『UCCミルクコーヒー』に続くようなロングセラーの開発に携わることだという。女性の感覚を大切にしながら、末長く愛される製品づくりは、これからもUCC上島珈琲の製品開発の中枢を担っていくことだろう。

提供:UCC上島珈琲株式会社

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