ミリ単位の設計図を作り続けて5年、
「Re.muse」のオーダースーツは
顧客の4割が女性

株式会社muse

東京・六本木、大阪・淀屋橋にあるオーダーメイドスーツ専門店「Re.muse」を展開する株式会社muse(以下、「ミューズ」)の提供するスーツは1着20万円以上。決して安いとは言えないこの商品を3,000着以上、仕立てて売り上げているのが、代表取締役の勝友美さんと女性スタッフのチームです。
2018年2月にミラノコレクションの舞台に立ったミューズの女性向けオーダースーツは、ミリ単位の緻密な採寸と縫製、ボディーラインを美しく見せる補正技術により、世界に認められました。ブランドとして飛躍の時を迎えたミューズの商品開発の経緯と商品に込めた想いを、社長の勝友美さん、六本木店の店舗責任者である土屋沙織さんに伺いました。

2018年2月、ミラノコレクションの舞台に立ったミューズの女性向けスーツ。「モダンとクラシックの融合」をコンセプトにした日本の有名デザイナーとのコラボレーションが実現した。

「自分のためだけに仕立てられた」と自信を持てるスーツを作りたい

19世紀頃からイギリスを中心としたヨーロッパ圏には「ビスポーク(bespoke、話をしながら購入者の注文、嗜好、使用目的などに合わせて商品を作り、提供すること)」の服を作るテーラーがいる。日本でも、幕末期にその文化が入ってきてから、スーツは一着一着、その人に合わせて作ることが主流だった。ところが現在では、多くの既製服が低価格で出回る時代となり、オーダーメイドのスーツに袖を通す機会はかなり少なくなってしまった。

株式会社muse代表取締役・勝友美さんは、そんな時代の中で老舗のオーダースーツ専門店に勤めていた。経営者や大企業の役員、士業の男性たちがオーダースーツを作りに来ることはあったが、女性が来店することは3ヵ月に1度くらいだったという。

「女性の社会進出が増えているにもかかわらず、日本には女性のオーダーメイドスーツの文化が一向に生まれようとしません。前に進むどころか、衰退する一方のように感じます。閉鎖的な業界に、女性の私だからこそできるイノベーションがある。そう思い立って独立を決意したのです」(勝さん)

株式会社muse代表取締役の勝友美さん。アパレルショップの販売員や老舗テーラーでの勤務を経て、2013年8月に大阪・淀屋橋で「Re.muse」本店を開店した。

アパレル業界では20代を過ぎると結婚・出産などで仕事から離れる女性が多いという。ミューズを立ち上げた背景には、そんなアパレル業界で女性が長く働ける場を創出したい、多くの女性が自分らしく生きるということを考えられる社会にしたい、そんな想いもあったという。

「大型のスーツ販売店などでも女性向けスーツの取扱いは売り場全体の5%から6%程度。男性のオーダーメイドスーツの需要はあるのに、女性用スーツがオーダーメイドで供給ができないのはなぜか、と考えたんです。
そもそも、オーダーメイドの採寸のときには体に触れることも多くありますので、女性はやはり女性のテーラーでないと安心して任せることができないと思います。
ところが、日本には女性テーラー自体がいないのです。」

「また私自身、当時、アパレル業界にいながらスーツが好きではありませんでした。女性のスーツというとリクルートスーツの延長線上にあるようなものしかイメージができなかったんです。着た時に女性が自分のために仕立てられた服だと心が躍る、輝けるスーツを作りたい、と思いました」(勝さん)

「Re.muse」の女性向けオーダースーツは、2013年の開店時にテーラードスーツからスタートし、ノーカラージャケットやワンピースなど徐々にバリエーションを増やしている。

ミューズのスタッフは1ミリ単位で採寸し、体型にフィットさせるための細やかな補正を50ヵ所以上行う。細部にわたる採寸指示がびっしり書きこまれたオーダーシートは、国内最高峰の技術を持つファクトリーに送られ、手作業による生地裁断を経て縫製される。わずか数ミリにも妥協しない、完璧なサイジングのスーツができるまでには、多くの苦労があることだろう。

「商品の基本となる型を作ることにおいては、お客様の採寸サンプルを100人採ったから大丈夫ということはありません。500人採寸しても、自信を持って提供できるところにたどり着くまで、とても怖かったことを覚えています。本当にこれが最高なのか、という問いかけを常に繰り返していました。お客様本人が喜んでくださっても、次に来店された時にシワが入っているのを見つけて内緒で補正したこともありました。
これならいける、と十分に自信のあるところにたどり着いたのは、4年の歳月を経てようやく、です」(勝さん)

他店ではオーダースーツといっても採寸にかける時間は10分~15分程度。ミューズの採寸は30分~60分。丁寧に多くのポイントを採っていく採寸に驚くお客様も多いという。

「女性テーラーだからこそ生み出せている商品」という自負

では、勝さんがこだわり抜いて設計した型がどのように商品へと昇華するのだろうか。一般的なオーダースーツは完成まで約100工程ほどかかるが、「Re.muse」のスーツはなんと約400工程。その半分以上を熟練職人による手作業で、すべて国内生産で作られるという。どうしてそれだけの工程と手間が必要なのかについて、ミューズの2人は語る。

現在、国内でオーダーメイドに対応できる縫製工場は4社ほど。その中の1社、大阪にあるファクトリーで70人の職人たちがミューズのスーツを仕立てている。

「まず1つに、女性の体はバストトップの位置や、出産経験の有無、お尻周りの形やサイズなど、誰1人同じサイズに収まることがありません。前身頃と後ろ身頃のバランスが人によって全く違うのです。男性のオーダースーツを中心に扱っているお店では、女性らしいくびれ感、スタイルの良さを表現することはできません。1枚の布をその方の体に完璧にフィットさせるには、それだけのカット数と縫製技術が必要なんです」(土屋さん)

六本木店の店舗責任者の土屋沙織さん。ミューズではお客様とさまざまな話をしながら採寸する。印象に残っているのは50代の主婦の方。「『自分を変えたい』というそのお客様に、これまでの人生になかった生地を提案したところ、女優のように生まれ変わられた」という。

「女性は男性に比べて自分の外見に対する意識が高く、自分のことを知っている方も多いので、その方がどう見られたいのか、どう見せたいのかを深く理解する必要があります。
美しく見せたい人、かっこよくありたい人、機能性を重視する人など、その人が大切にしているものを見極めることが重要ですが、その曖昧な感覚は同じ女性にしかわからないものだったりします」(勝さん)

「見極めにおいても単にそのまま質問するのではなく、様々なコミュニケーションの中からその人が求める形を作り上げていくことが必要です。例えば『タイトなシルエットが好き』と言う方がいたとして、どれだけタイトなものが好きかをそのまま質問しても、答えが返ってくることはなかなかありません。その方がおっしゃる『タイト』とは、どんなタイトなのかを会話の中から見極め、1ミリ単位の数字に落としていくことが私たちの仕事なのです」(土屋さん)

100年先もずっと進化し続けるチームで、お客様に服を作るという「体験」

当いま、「Re.muse」ブランドで提供する女性向け商品は、テーラードのスーツ、ノーカラージャケット、スタンドカラージャケット、ワンピース、パンツスーツ、スカートスーツとラインナップも増えている。現在の商品開発はどのように行っているのだろうか。

「この六本木店を開店してから、それまでご来店くださったお客様よりも幅広い年代の方にお越しいただけるようになりました。40代までの方をイメージして用意した商品も、50代の方が多くいらしてお話をうかがっていると、その方々によりフィットする商品を展開したいと強く思うようになります」(土屋さん)

「Re.muse」六本木店の外観(写真左)と1~3階の店内(写真右)。地下一階はスタッフの執務室になっている。

「たとえば、シャネルツイードのジャケットがあるのですが、コートの展開もできないか、とか、お客様に喜んでいただくためにはWフェイスのコートがいいだろう、とか、毎日の接客の中で常に提供したいものが出てきて、デザインバリエーションを増やせないか、と毎日話し合っています」(勝さん)

勝社長と土屋さんの打ち合わせの様子。日々行われる情報共有の時間には、お客様の話から新商品のアイデア、会社の未来にまで話が及ぶ。

「あわせて、自分たちがどういうものを目指しているのかと言う理念共有を日々行っています。100年後、自分たちの命が亡くなった後も『いつ来てもまた訪れたくなる店だ』と思ってくださるお客様が続くことを目指しているんです。

そのためには、これからミューズに入社する人たちにもその想いを繋いでいく必要があります。さまざまな人生経験を経てミューズで働く決心をしてくれた人が、その人らしい接客でお客様に喜んでいただけたら。それはまるでリレーのバトンを繋ぐように、次の代に引き継ぐのはもちろん、その先の先の先の先の先まで考えて商品を、会社をつくっているつもりです。そして自分が歳をとったときにミューズで働いていたことが誇らしい気持ちになること、新しく入ってくる人たちにもそれを体験してもらえるようがんばっています」(土屋さん)

NHK「ニュース シブ5時」では、「夢をかなえるスーツ」「チャレンジするスーツ」として「Re.muse」の女性向けスーツと勝社長の仕事風景が紹介された。

「必要なことは、お客様が輝ける服を作ることはもちろん、『服について学ぶことができた』『ミューズのスタッフと話す時間が楽しかった』という、服を作る体験そのものに喜びを感じていただくことです。お客様にとって常に自分がまた会いたいと思っていただける人であること。それを心がけています」(勝さん)

顧客はミューズのスーツを「ヴィクトリースーツ」と呼ぶのだという。成功を勝ち取るスーツ、自分が最高の状態で勝利できるスーツ、の意味だ。ミューズは今年9月のミラノコレクションにも参加の予定。新作の発表だけではなく、100年先を描くこの会社のこれからが見逃せない。

 

提供:Re.muse(https://re-muse.jp/

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