「ハイヒールの痛みからの解放」
―たどり着いたのは、世界初ヒールが付替可能なパンプスだった

ハイヒールが必須となるフォーマルなシーンで働く女性たちにとって、足の痛みは悩みの種。とくに顧客先を駆け回る営業職ともなれば、「移動用」と「商談用」の「2足持ち」をする女性も少なくありません。でも、「2足持ち」は荷物がかさばるのが難点で、ただでさえ資料でいっぱいの重いバッグがますます大きな負担になります。
「株式会社inace」の上野真里子社長が始めたのは、そうした女性たちの負担を軽減すべく、革新的な靴の輸入販売でした。それは、フランスのシューズブランド「TANYA HEATH Paris」の「ヒール部分が付替可能なパンプス」という、世界的にも前例のない斬新な靴です。
日本の総代理店として株式会社inaceを立ち上げた上野真里子さんに、前職の営業で経験したハイヒールにまつわる苦労話から、単身渡仏して日本独占販売代理店の話を取り付けた経緯、ヒールが付け替えられる靴の魅力、そして今後のビジョンまで、詳しく語っていただきました。

フランス靴メーカー「TANYA HEATH Paris」の革新性に惚れ込み、単身渡仏して日本独占販売代理店の話を取り付け、株式会社inaceを立ち上げた上野真里子さん。

フランス靴メーカー「TANYA HEATH Paris」の革新性に惚れ込み、単身渡仏して日本独占販売代理店の話を取り付け、株式会社inaceを立ち上げた上野真里子さん。

前職は医療機器メーカーの営業だった上野さん。
ハイヒールを履いて都内の顧客先を駆け回る経験から、
「ヒールだけ取り外せる靴があれば」という思いに至った

「医療機器メーカーの営業をしているときは、毎日都内の病院を3、4軒、多いときは5、6軒回っていました。その間ずっとヒールを履いているわけですが、やっぱり疲れるじゃないですか。営業を終えて会社に戻る頃には歩けなくなって、靴を捨てて帰ったこともありました(笑)。そこで今度は「2足持ち」をしていたんです。移動時はフラットシューズで、商談時はハイヒールに履き替える。常にフラットシューズという選択肢もありますが、主な提案先がドクターだったこともあり、言葉遣いや身だしなみには気を遣っていました。忙しい先生方から時間をいただいているので要点を端的に伝え、なおかつ一瞬でインパクトを残さないと競合他社の営業マンには勝てません。ハイヒールはスーツに映えるというのはもちろんなのですが、私にとってはマインド的な要素が強くて、ハイヒールを履いていると背筋がピンと伸びて、気持ちの面でも心地良い緊張感を保てるので、商談がうまくいく気がしています。実際、幸運にも3年目でトップの成績を収めました。競合他社からヘッドハンティングの話があったりもして(笑)。でもその時働いていた会社が好きだったし、営業職から企画開発のプロダクトマネージャーの仕事を任せてもらったことがきっかけで、荷物を減らしたいと思ったんです。一番かさばっていたのが持ち歩いている靴でした。その時にふと、ヒールだけ取り外せて、持ち運べたら楽だな、と思ったんです」。
これが出発点だった。インターネットで調べてみると、ヒール部分が付替可能な靴を開発・販売し、特許も取得しているフランスのシューズブランド「TANYA HEATH Paris」(ターニャ・ヒース・パリス)のホームページにたどり着いた。

かかと部分のボタンを押すだけで、誰でも簡単にヒール部分を付け替えることができるTANYA HEATH Parisのパンプス。その他、サンダルやブーツのラインナップもある。

TANYA HEATH Paris
かかと部分のボタンを押すだけで、誰でも簡単にヒール部分を付け替えることができるTANYA HEATH Parisのパンプス。その他、サンダルやブーツのラインナップもある。


「ああ、やっぱり同じことを考えている人が世界にはいるんだな」と思うと同時に、アイディアを実際に形にし、製造販売を行っていることに感銘を受けた。創業者が女性であることにも心が動かされた。

ウェブサイトには、高さもデザインもさまざまな靴本体とヒールのラインナップが並んでいた。それを見て、結婚式場やパーティー会場で靴を履き替える女友達のことや、会社のロッカーに靴を5、6足ストックしている職場の先輩のことが思い浮かんだ。この靴があれば、日本の女性たちの負担を軽減できるかもしれないと思った。

これが今から4年前のこと。意外にも、そのときは一足も購入しなかったという。海外からの商品購入となると、高額な送料やサイズが合わなかった際の返品など、面倒なことも多く、不安があった。購入は見送ったものの、「TANYA HEATH Paris」のことはずっと頭から離れなかった。

フランスにいる創業者のターニャ・ヒースに直接コンタクトを取り、単身渡仏。
パリで最後にかけられた言葉で、自分の本心に気づかされた

「TANYA HEATH Paris」の存在を知ってから数年が経過していた。上野さんが実際にその靴の輸入事業を開始するまでには、大きなきっかけが2つあった。

一つは、「起業」という学生時代からの夢。

「社会人としてある程度の経験を積んだので、女性が社会で働くことの楽しさと複雑さの両方を実感していました。自分で起業すれば私自身の働き方、そして女性が働きやすい環境を作れるのではないかと考えていました」。

そういった思いや、学生時代からの夢を実践に移せていない自分に焦燥感を覚えるようになっていた。

そんなとき、祖父が逝去した。地元柴又で会社をいくつか経営していた祖父のことは幼い頃から敬愛していた。亡き祖父に想いを馳せるうちに、いつしか自分の人生を見つめる時間が増えていった。

「それまでは女性の、そして私自身の働き方についてばかり考えていました。しかし祖父の死によって重要なことに気付かせてもらったんです。私が考えなくてはならないのは、働き方ではなく “生き方” だって。もっと荒々しい言葉を使うと、生き様ですね。どう生きてどう死んでゆくか。そこにフォーカスしてから、行動は早かったです(笑)」。

「気付いたらフランスのTANYA HEATH Parisにメールを送ってたんですよ、『御社の開発した靴のコンセプトがとても素晴らしいと思ったので、責任者の方にご挨拶がしたい』って。片言のめちゃくちゃなフランス語だったと思いますが、ニュアンスだったり、何となくの人柄は伝わっていたんだと思います」。

先方からは「日本には責任者がいない」という返事がきた。上野さんは「もちろん私がフランスまで出向きます」と返答。すると、TANYA HEATH Paris創業者のターニャ・ヒースさん本人から英語でメールが返ってきた。「フランチャイズに興味があるの?」との問いに、上野さんは「あります」と返答した。日程を指定されたので、すぐさまパリ行きの航空券と、TANYA HEATH Parisブティック徒歩5分程のところにあるホテルを手配。一カ月後には渡仏していた。上野さんにとってそれが初めてのヨーロッパだった。
 

持ち前の行動力で創業者と連絡を取り、会社は休みを取ってすぐさまパリへ渡った。

持ち前の行動力で創業者と連絡を取り、会社は休みを取ってすぐさまパリへ渡った。

 
パリに着くと、その足でさっそくTANYA HEATH Parisのブティックへ。何も伝えず、一人の客として接客を受けた。靴を実際に履いてみての第一印象は、「私のような典型的な日本人の足にも合う」ということ。フランス製の靴が日本人の足の形に合うか不安だったのだが、それが払拭された。そして、いくつものヒールを好みに合わせてコーディネートできるという新しい感覚に、これまで味わったことのない喜びが込み上げてきた。

翌日、初対面を果たした創業者のターニャ・ヒースさんはパワフルかつ愛情深い女性で、あまり言葉を交わさなくても思いが通じ合う相手だと感じた。上野さんは、自身の経歴を英語で説明できるように事前に準備していたが、ターニャさんは上野さんの経歴についてはほとんど何も聞かなかった。2人は現在そして未来のことについてディスカッションを重ねた。

「TANYA HEATH Parisは、スマートな女性と仕事をする必要があるとターニャが切り出しました。私がスマートかはさておき(笑) 、その理由は2つ。just beginning、そしてvery challengingだから、って。そのあとにBut there is a lot of potential.と続けました。それを聞いて痺れましたね」。

創業者ターニャ・ヒースのビジョンについても強く共感していた。

「ターニャがこの靴を作る理由は、美しさを妥協せずに女性が痛みから解放されること。そして、世の中の女性により多くの選択肢を与えることだと言いました。靴のためではなくて、ビジョンのために仕事をしている。なんて素敵なんだろう、私も同じビジョンを実現したいって思いました」。

決定打となったのは、パリ滞在最終日にターニャさんからかけられた言葉だ。

「滞在は短期間でしたが、私の長所をたくさん伝えてくれて。それに加え最後に一言、ターニャが言ったんです。『私が思うに、あなたは今の自分に飽き飽きしているんじゃない?』その瞬間決意しました。日本でやろう、って」。

帰国して会社を退職し、起業。
周りの助けを受けながらも、輸入から商品発送など全てをこなすのは
骨が折れるが、靴の購入者からの反響は上々で、今後への期待は膨らむ

TANYA HEATH Parisの靴は、「付替可能なヒール」を最大の特徴としているが、ラインナップの豊富さも魅力だ。本体となる靴だけで17種類あり、それに取り付けるヒールは全部で80種類にも及び、高さ・幅・デザインがそれぞれ異なる。

本体は同じパンプスでも、ヒールを変えることで雰囲気はがらりと変わる。ビジネスシーンからパーティシーンまで、組み合わせ次第で何通りもの楽しみ方が味わえる。

本体は同じパンプスでも、ヒールを変えることで雰囲気はがらりと変わる。ビジネスシーンからパーティシーンまで、組み合わせ次第で何通りもの楽しみ方が味わえる。

 

靴のサイズも、通常の5mm刻みではなく、より細かい3mm刻み。一つのデザインに対してサイズのバリエーションが多いことで、より自分の足に合った靴を選ぶことができる。また、靴本体は一つでもヒールを複数揃えておけば、シーンに合わせて組み合わせを変える楽しみもある。

TANYA HEATH Parisの靴は、ルイ・ヴィトンが発行するパリのCity Guide 2017に掲載された。靴を1万足所有しているといわれるフランスを代表する歌手アマンダ・レアの好きな靴として紹介された。

TANYA HEATH Parisの靴は、ルイ・ヴィトンが発行するパリのCity Guide 2017に掲載された。靴を1万足所有しているといわれるフランスを代表する歌手アマンダ・レアの好きな靴として紹介された。

 

もちろん実用性も抜群だ。高いヒールに疲れた時は低いヒールにチェンジすることで足の疲労感が減る。同時に、ヒールへのダメージも抑えられるので、普通の靴より擦り減りにくい。つまり、靴が長持ちするようになる。従来のレディースのパンプスは、丹念に手入れをして長く大切に扱うメンズの革靴とは異なり、ヒールの擦り減りや革の劣化で、比較的短時間で履きつぶしてしまうことが多い。だが、耐久性に優れるTANYA HEATH Parisの靴なら、長く愛用することが可能だ。そのため、上野さんは女性向けに靴磨きのレッスンなどをやってみたいとも考えている。

まだ店舗はないが、今年7月に表参道でポップアップショップとして8日間出店した際には、想像以上に多くの顧客が訪れ、反響も上々だったという。12月からは白金に拠点を移し、接客販売を行っていく。

「自分自身の人生を最大限に生きようとする女性を、TANYA HEATH Parisの靴とヒールを通じて応援したい。頑張っている女性の負担を減らしてあげたい、心からそう思います。それが、創業者ターニャとの約束です」。

「美しさを妥協せず、痛みから解放される」というコンセプトの靴を、日本でより多くの顧客の元に届けるため、全国に店舗を構えるのが上野さんの次の目標だ。

「美しさを妥協せず、痛みから解放される」というコンセプトの靴を、日本でより多くの顧客の元に届けるため、全国に店舗を構えるのが上野さんの次の目標だ。

 

 

提供:株式会社inace https://tanyaheath.jp/

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