入社以来、冷蔵庫の開発に取り組んできたベテランに
食品化学の研究者が加わってチームは一気に走り出した

冷蔵庫に搭載された野菜の鮮度を守る「スリープ野菜」は、2014年9月発売以来、シリーズ累計140万台以上の大ヒット。手がけたのは、日立アプライアンス株式会社開発センタ主任技師の船山敦子と開発メンバーの國分真子で、冷蔵庫の歴史に残る画期的な商品となりました。
野菜室に「スリープ保存」を採用するには、炭酸ガスの濃度を高める密閉度の高い構造が必要でした。また最大の難関は野菜から出た余分な水分が結露してしまうこと。突破の決め手となったのは、船山さんの過去の業務での経験と、農学はもちろん食品科学など複数の専門家の情報収集と、閃いたらすぐにコンタクトをとるスピードでした。
開発までの道のりは、技術研究者として大きな飛躍にも繋がったのです。

日立アプライアンス開発センタ主任技師・船山敦子(左)と12年入社の技師・國分真子の開発チームが、冷蔵庫の歴史に残る野菜「野菜スリープ」を誕生させた。

*手に持っているチンゲン菜:「スリープ保存」未搭載機種で保存(左)、「スリープ保存」搭載機種で保存(右)

 

「スリープ野菜」の最初の決め手は、密閉した空間で炭酸ガスを充満させて
野菜を眠らせること

日立アプライアンスが独自の高鮮度保存技術である「スリープ保存」を野菜室に採用した。冷蔵庫庫内で野菜を眠ったような状態にして鮮度と栄養素を守るという国内の家庭用冷蔵庫では初めての機能を持つ。この機能を搭載した冷蔵庫は、2014年の発売以来、シリーズ累計で140万台以上の大ヒット商品になった。
野菜室に高鮮度保存技術「スリープ保存」を採用することに成功させたのは、日立アプライアンス家電・環境機器事業統括本部 栃木家電本部開発センタ主任技師の船山敦子と同・開発センタの國分真子。12年モデルの冷蔵庫「真空チルドSL」シリーズの『真空チルドルーム』に搭載している「スリープ保存」を応用したものだ。
 日立が長年取り組んでいる「真空チルドルーム」の開発が、野菜室の「スリープ保存」誕生に不可欠だったと船山さんは語る。
「91年の入社以来、冷蔵庫の開発に取り組み、肉や魚などの鮮度を守るために『真空チルドルーム』の開発と進化を、東京海洋大学の大島教授と共に10年以上もかけて取り組んできました。開発を進めるなか、真空にすることで食品の酸化を抑制するだけでなく、チルドルーム内に炭酸ガスを増やすことで、生野菜にも鮮度保持の効果があることが分かり、野菜室への展開に踏み切りました。これまでの野菜室よりも鮮度を守ることができ、ニーズがあると判断しました。」
 強力なメンバーも加わった。これまで船山さんが手取り足取り開発部のスタッフに実験を指示してきたが、12年に國分さんが入社すると実験を一任した。國分さんは東京海洋大学修士課程で食品栄養化学を専攻し、さらに大島教授に師事していたため、船山さんとの信頼関係も早い段階から培うことができた。

学術記録などを手掛かりに各ジャンルの専門家にコンタクト。アンテナは常に張り巡らしている船山開発センタ主任技師。

 

東京海洋大学修士課程を経て、2012年入社の國分真子。食品の知識を最大限に生かしながら、コツコツと実験を続ける。


まず「スリープ野菜」の開発の最初の課題は、野菜の呼吸を抑えることだった。当時を振り返って、船山さんは語る。
「食品の鮮度を守るためには酸化を抑えることが大事です。空気中には20%の酸素が含まれていますが、酸素を減らすことは大変です。でも、空気中に0.04%しかない炭酸ガスを増やすことは容易かもしれないと気づきました。密閉された『真空チルドルーム』内で食品から発生したエチレンガスやニオイ成分を光触媒で分解し、残った炭酸ガスを測定してみたところ、ものすごい変化を観測しました。そこで、野菜室も密閉構造にして炭酸ガスを増やせば、野菜の呼吸が抑えられて長持ちするかもしれないと考え、それからは設計部との新しい野菜室の共同開発になりました」
 2011年頃には、学術記録などを手掛かりに、農学部の教授にダイレクトに問い合わせた。アンテナを常に張り巡らし、フットワークの軽い船山さんは、さらに農学や水産学だけでなく、園芸、食品化学、家政、さらには調理に精通する専門家にもコンタクトをとってみた。
「食品は、産地が異なると、栄養や成分も異なります。また収穫の時期によっても野菜成分の含有量が違ってくる。そのため均一化した保存が必要不可欠になります。専門家から得た知識をもとに、開発を進めました」
 専門家たちの情報を収集し、意見を求めながら、設計部と共同開発を続け、試作した野菜室に炭酸ガスを充満させることが出来、これにより野菜の呼吸が抑えられ鮮度保持が格段にアップすることを実験で確認したのだ。
「そこで野菜室の本体側にLED光源を設けて、下段ケースに光触媒を配置して、野菜から出るエチレンガスから炭酸ガスを生成しました。また、密閉度を向上させるためにロックハンドルと、下段スペースとボトルコーナーとの間に仕切りを搭載し、下段スペースに炭酸ガスを保持する仕組みを採用しました」
炭酸ガスの確保には、部品交換の不要な光触媒を使用した。これで野菜から出るエチレンガスやニオイ成分を分解し、炭酸ガスに換えることが可能になる。光触媒を作用させる光源には、LED(発光ダイオード)を採用した。
 ところが密閉すると野菜室の湿度が上がり、野菜から出た余分な水分が結露してしまう。この壁を打ち破ることが大きな課題になった。

野菜の余分な水分の結露が最大の難関。
突破口は、エアコンの新機能開発で知識を得た吸放湿素材に気づいたこと


「密閉すると、水分が野菜室の容器にたまって、水浸しになります。原因は、野菜の呼吸により水分が排出されるからです。密閉空間なので、水分が蒸発しにくいため、容器に穴をあけて水を捨ててもらう方法や、水分を蒸発させるなど、数種類の試作品を設計部に作ってもらいました」
 だが、野菜室の床面に水を溜め、ユーザーに捨ててもらう方式は断念せざるを得なかった。「水は腐敗しやすい。何よりメンテナンスフリーにしないとユーザーに受け入れてもらえないですね」(船山さん)。
 悩んだ末に、かつてエアコンを担当していた時代に、除湿器や加湿器には水を吸放湿する素材があることに気が付いた。そこで、フィルターに水を吸わせて、冷気で気化させると一定の成果をもたらすとわかる。
「とにかく、野菜を大量に買い込んで試行錯誤を続けました。水分を多く放出するのは葉物野菜と思っていましたが、実は大根でした。大根を野菜室に満載しても結露しないレベルまで達するために、時間を費やしましたね」
野菜から出た余分な水分が結露してしまう最大の難関は、「うるおいユニット」で解決した。
「水蒸気をアルミパネルで結露させて集約し、蒸発させるのが『うるおいユニット』。これで、野菜のみずみずしさを守ることができました」
 こうして2014年に「スリープ野菜」を搭載した冷蔵庫は画期的な商品として、注目を浴びた。
そして、野菜室の下段スペースのみだった「スリープ野菜」が野菜室全体に広がったのは、2015年。これも船山さんのアンテナを張り巡らした功績から生じたのだ。
「これまではLEDを必要とする光触媒がメインでしたが、光を必要としない、0℃でエチレンガスを炭酸ガスに分解できる世界発のプラチナ触媒を開発したと、北海道大学から発表されたんです。『これは冷蔵庫に最適だ!』と閃いて、すぐに北海道大学に連絡を取って、『スリープ野菜』に使用しました」
 こうして野菜室内の上下段ともに「スリープ野菜」を採用。「スリープ野菜」を採用した商品は、累計で140万台以上のヒット商品になった。

「真空チルドルーム」から「スリープ野菜」へ。社内プレゼンで熱弁する開発の船山さんは、現在15歳になる男の子の母親。冷蔵庫の開発と共に子供の成長する姿を見守ってきた

 

野菜も種類や産地、収穫時などで水分量も変化する。地道にしかも確実に実験を続けた國分真子の熱意も「スリープ野菜」の開発を支える

「スリープ野菜」機能の効果(7日間保存) (*4)

庫外の室温20℃、湿度70%、R-X6700Eの「スリープ野菜スペース」に収納可能な量の野菜をラップなし、ドア開閉なしで保存したデーター。比較するとスリープ野菜の効能が一目で判明。

産休を経てから技術者としての円熟期へ。
子育てをしながら冷蔵庫の進化を図る充実の日々

歴史に残る日立の冷蔵庫を開発した船山敦子さんは、1967年群馬県生まれ。91年に宇都宮大学工学部の環境化学科を卒業し、日立製作所に入社。もともと数学の教師を目指していたが、高校で有機化学を学ぶと、その面白さに惹かれて大学で専攻する。
日立では当初は冷蔵庫やエアコン、生ゴミ処理機の脱臭技術開発に従事。98年から冷蔵庫の鮮度保持技術開発の専任となった。
「日立アプライアンスに入社した時に、『日立の冷蔵庫はここで作られている』という感慨に包まれました」と船山さん。高校時代から好きだった化学の知識が生かされると、意欲的に取り組んできた。
 2003年に長男を出産。1年間の産休の後に復帰してから、前述のように、「スリープ野菜」の開発に取り組んできた。
「社内には、私と同じように産休を取って、復職してから、子育てをしながら働く女性がたくさんいます。子育てと仕事の両立が普通の職場なので、働きやすいですね」
 2012年入社の國分真子さんも「女性が働きやすい環境の職場です。入社4年目に、熊本の震災で被害に遭ったお客様から、『スリープ野菜』が搭載されている冷蔵庫が役になったと社に感謝のメールが届いて感動しました。このミッションに関わって良かったです」と喜びを素直に語る。
 さて今後の目標は何か。冷蔵庫のさらなる進化と、海外展開を図ることだと船山さん。
「鮮度を守るための技術開発はもちろん、今後は海外展開を目指します。すでに國分さんが現地に10日間滞在し、市場やスーパーで購入した野菜や果物を保存する実験を行いました。」
 日本から世界へ。野菜の鮮度を守る技術のさらなる飛躍に向けて、今日も二人はチャレンジを続ける。

 

開発センタ主任技師の船山敦子と、技師の國分真子の次なる目標は冷蔵庫のさらなる進化と海外進出。夢を馳せる二人のまなざしは熱い。

 

提供:日立アプライアンス株式会社 http://www.hitachi-ap.co.jp/

Key word