お喋りの中から生まれた新しいアイデア
消費者目線で作る、女性ならではの開発力

群馬県館林市にある正田醤油といえば明治時代から続く由緒ある企業として知られてきました。ともすると伝統に埋没してしまいがちな同社の発展の一翼を担ってきた女性の開発力を集結させたのが、今回ご紹介する『冷凍ストック名人です。 まとめ買いしたひき肉を、調味料が入った袋に入れ、そのまま冷凍庫でストック。使う時には解凍することなくフライパンで調理が可能。 この斬新なアイデアは、女性ならではの体験を商品開発に活かしたことで、大きな反響を呼び、消費者の立場からも好評を得ました。同商品が生まれた経緯とは?開発のきっかけや製品化して世に出るまでのプロセスを、プロジェクトのチームリーダーである柏木さんをはじめ、メンバーの方々にお話しを伺いました。

正田醤油株式会社の所在地は群馬県館林市。従業員全員が能力を発揮できる職場であることを経営理念に掲げ、男性も女性も活き活きと働ける取り組みが行われている。

働くお母さんを助ける商品づくりがしたい。ママのお助け調味料への挑戦が始まった

女性社員で構成された「正田なでしこプロジェクト」の第一弾商品「冷凍ストック名人」。

 

「『冷凍ストック名人』は、当社の女性社員で構成された「正田なでしこプロジェクト」の第一弾となる商品です。私は途中で産休・育休を挟みましたが、正田なでしこプロジェクトの第一期生として商品開発に携わりました。社内のワーキングマザーたちを助ける商品があったらいいなという思いがあり、プロジェクト発足前から社内の女性たちの声を聞いてまわっていました。子どもを持つお母さんに4回くらいインタビューを重ね、女性社員だけで座談会を開いたこともあります。そういった中で、「退勤後に子どもをお迎えに行き、子連れで買い物に行って、帰宅後に夕飯を作るのは本当に大変!」という意見が出てきました。そこを何とか助けられる商品が必要だと思ったのが商品誕生のきっかけです」と語るプロジェクトリーダーの柏木知子さん 。

育児をしながら働く女性たちの、リアルな悩みから始まった商品開発。従来の開発であれば男女混合でチームが組まれるが、2015年、正田醤油では初めての試みとなる女性だけの開発プロジェクトチームが発足した。

「当社では以前より、家庭用商品のマーケティングを女性が中心になって行っていました。その取り組みが次第に世の中で評価されるようになってきたので、今度は女性だけでチームを作って開発から販売まで集中的にやってみないかと社長から提案があり、女性目線で商品づくりを行う正田なでしこプロジェクトが始まりました。私たちが扱っている商品は調味料なので、消費者の大半が女性です。消費者の目線も開発者の目線も、両方を持ち合わせて議論ができる立場を重要視しました」と柏木さん。

正田醤油の製品群

 

女性社員だけを集めた「正田なでしこプロジェクト」。チーム名は第一期のメンバーで話し合って考案した。何気ないお喋りの中から、思いがけないヒントが見つかることも。

 

「プロジェクトでは、異なる立場の目線を開発に活かすため、各部署からメンバーが集まりました。女性だけのチームは初めてで新鮮でしたが、会議の時にはお菓子をつまみながら、和気あいあいとした雰囲気で議論をしていました。私は産休育休を経験し、一度家庭に入っていたこともあり、消費者の目線で積極的に意見を出すように心掛けていました。2週間に一度、会議を行い、次回の会議までに宿題を持ち帰って考える……といった流れでプロジェクトが進行していきました。女性同士の気兼ねない雑談の中から新たなアイデアが生まれる場合が多いので、リラックするできる雰囲気を大切にしていましたね。また、メンバーが自主的に社内の女性社員に意見をヒアリングしていたので、気軽なコミュニケーションを開発に活かせるところも、女性が集まった強みだなと感じました」。

女性たちのお喋りから生まれるアイデアを活かし開発が進む一方、男性の役員に商品の利便性を理解してもらうことに苦労したという。

「その場ですぐに使える商品が多い中で、なぜわざわざ冷凍して使うのか、男性役員に理解してもらうのに時間がかかりました。忙しいワーキングマザーがスーパーに買い物に行けるのも週に2回程度。そこでお肉を大量にまとめ買いして、自分でラップをかけて小分けにして冷凍する。料理で使う時にはひとつずつ解凍する手間がかかり、電子レンジで解凍するとお肉の中が固まってしまうことだってあります。女性たちのそういった現状に関するデータを集め、説明する作業を地道に続けていきました。商品が発売されるまで腑に落ちなかった男性役員もいらっしゃいましたが、最後は『そこまで言うならやってみなさい』と背中を押してくれました」と、研究開発企画室から参加した小林乃里子さんは振り返る。

 

消費者投票では大手企業をおさえて堂々の2位を獲得

 

「実際に商品を使う立場ではない男性社員からは、なかなか理解が得られなかったものの、商品発売後には消費者から高い評価を得ています」とプロジェクトリーダーの柏木知子さん(左)とサブリーダーの小林乃里子さん(右)。

 

「2016年の夏に問屋の展示会があり、とても良い評価をいただきました。実際に展示会に足を運んだ参加者たちは、商品説明を聞きながら試食をすることができるのですが、『冷凍ストック名人』が参加者投票で2位に選ばれたのです。大手を含む約40社の企業がエントリーする中で2位を獲得できたのは喜ばしいことでした。また、発売前に社内で試食会を行った際は、男女関係なく完成品を食べてもらい『美味しいね』『すごく便利だね』という好意的な意見を貰うことができました」。

消費者目線での開発を進める中、味作りとパッケージ作りに苦労したと開発時を振り返る柏木さん。

「子どもがいる社員に試作品を渡し、実際に食べてもらいました。2歳から小学校低学年くらいまで様々な年齢のお子さんに食べてもらい、辛さの調節をしていきました。また、パッケージを決める段階でも、全員が消費者の立場で意見を出し、うまく擦り合わせていくのが大変でした。これまでに商品企画をした時は、デザイナーとの話し合いを交えながら一人の企画者として作っていましたが、今回は全員が消費者の本音で意見を出すので、美味しそうに見えるパッケージが完成するまでには苦労も多かったですね」。

本社の敷地内にある近代的な建物は正田醤油の研究棟。こだわりの味作りはここで行われている。

女性だけの狭い世界に閉じこもらない企画でありたい

女性たちで主体的に商品作りをする取り組み。これまでにない商品を生み出し、良い評価を得ることによって、女性たちのモチベーションアップにも繋がっている。

 

「冷凍ストック名人」が正田なでしこプロジェクトの第一弾商品としてヒットし、現在は次の商品展開の企画が始まっているらしい。

「現在、メンバーを半分ほど入れ替えて、正田なでしこプロジェクトの第二期がスタートしています。第1期生メンバーの中には育休中の人もいますし、社内の色々な女性にプロジェクトを経験してほしいという思いから、メンバーを定期的に入れ替えていく方針です。私は第二期でも継続して商品開発に携わっていきます」。

正田なでしこプロジェクトの強みは、消費者でもある女性が企画を行っていることから、実体験で商品の良さを説明できるところである。ターゲットである忙しい女性の立場に立ち、彼女たちの悩みや要望を商品にそのまま反映することができる。

しかし柏木さんは、男性社員の意見を取り入れる大切さを今後の課題として取り上げている。

「知らず知らずのうちに、すべてを女性だけのチーム内で完結させてしまいがちですが、パッケージ開発の際など悩んだ時には、男女関係なく企画開発に精通した社員に投げかけていく大切さも感じています。狭いところで仕事をせず、より広く投げかけていくことで良い商品ができると思うので、女性の強みを活かしつつ、男性社員や専門職の人々もプロジェクトに巻き込んでいきたいと思っています」。

 

提供:正田醤油株式会社

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