雑貨の味わいと世界観を共有することで、
女性の「かわいい!」が聞こえてくる
愛らしい商品にしたかった

マルハニチロ株式会社

水産物の輸出入・加工・販売、さばやさんま、かになどの缶詰や、フィッシュソーセージ、冷凍食品などの製造・販売を中心に事業を展開するマルハニチロ株式会社は、1880年の創業(マルハ)以来、業界をけん引してきました。そんなマルハニチロと、女性誌においてトップシェアを誇る株式会社宝島社が開発・プロデュースする北欧発のライフスタイルブランド「kippis®」がコラボレーション。北欧で愛される食材を使った「北欧シリーズ」が誕生しました。インスタ映えしそうなオシャレなビジュアル、そして食卓で手軽に北欧らしさを味わえる商品はどのようにして誕生したのでしょうか。開発営業課のみなさんに話をうかがいました。

缶詰は、スモークサーモンとサーモンオイル漬の2種。ソースは、キャラメルシナモンソース、ソルティーレモンソース、クリーミーデミソース、サーモントマトソース、ルバーブアップルジャムの5種からなる。

北欧の食材を使った商品開発は未経験の領域

マルハニチロの開発営業課は、新商品や新ジャンルの開拓を目的に、2012年に立ち上げられた。過去には、ワインに合うフレンチテイストな缶詰・瓶詰「ラ・カンティーヌ」や、ガイドブック『地球の歩き方』と共同でレトルト商品を開発するなどコラボレーションも手掛けている。しかし、「kippis®」のブランドコンセプトに合わせて、北欧の食材を使った商品、さらには雑貨の要素も備えた商品の開発は手掛けたことがなかったのだ。

テキスタイルのデザインから始まった「kippis®」は、鞄やポーチなど雑貨商品の開発を得意とする他、ハンカチやスリッパなどの服飾雑貨や、コースター、魔法瓶、エプロンといったキッチン用品などを販売するメーカーとも提携し、そのテキスタイルを提供してきている。当然、「北欧シリーズ」のパッケージには、テキスタイルをあしらい、ビジュアルも北欧を追求する。経験のないチャレンジが求められた。

開発営業課の野中さんは、入社3年目。「北欧シリーズ」開発チームの中心メンバーだ。野中さんが一から十まで手掛けた初めての商品「北欧シリーズ」に、とても愛着がある。

 

開発チームは7名で編成された。課長の渋谷靖朗さん以外は、全員女性だ。20~30代の女性をターゲットにするから女性が集められたのではなく、開発営業課の9割は女性社員。もともと同社は、女性活躍推進に優れた上場企業「なでしこ銘柄」(経済産業省認定)に選定されたこともあり、女性活躍の場が多い企業だ。

「女性の感性が求められる商品なので、開発営業課に男性がいたとしても、女性に担当してもらったと思います」と渋谷さんは話す。

 目指したのは、日本女性に受け入れられる“北欧”

宝島社との顔合わせが実現したのは、2016年の年明けすぐだった。

宝島社からは、「コンセプトは“毎日の食卓を明るく”。いつも食卓に並べておきたくなるようなかわいらしさがあって、親子で食べられて、パッと使える調味料のようなもの」という条件が課せられただけで、水産品という縛りもなかった。そこでまずは北欧の食文化を調べたり、北欧料理店で食事したりしながらイメージを固めていった。

北欧でおなじみの食材でローカルな味を再現すれば、コアな北欧ファンから支持される。他社の商品と差別化するために、北欧らしさというエッジは効かせたい。しかしエッジが効きすぎると、ライトな北欧ファンには興味を持たれにくくなる。

「たとえば北欧でよく食べられているルバーブ(野菜)のみだと、日本ではなじみが薄いので、りんごジャムの中に入れました。私たちの食卓になじみのあるものに、北欧の食材やスパイスを加えることで、北欧らしさを感じてもらえるよう工夫したんです」(野中さん)。

宝島社の「kippis®」担当チームには、北欧関連の企画を多数手掛け、自ら北欧を取材しているメンバーもいる。現地の味についてレクチャーを受けたことが、商品開発にプラスになった。

 

試作室で理想に近い味は出た。しかし、工場で再現できなければ販売には至らない。特に各ソースによって粘度(濃度)が違い、その細かい粘度の違いを再現するのが難しかったという。工場の製造スタッフから、「これは結構難しいね」と言われ、本当に完成するのかと不安になる野中さんを、商品開発歴10年の鈴木美佳さんがサポートした。

「新しい場所で展開する商品なら、凝り固まった頭で考えるよりも、若い感性で柔軟に考えてもらうほうがいいだろうなと思って、私はサポートに徹しました」(鈴木さん)。

 

「女性誌を発行し続け、女性誌シェアトップの宝島社ならではの視点で意見をいただき、勉強になった」と野中さん。パッケージの提案では、女子会のような雰囲気で盛り上がった。

企画書にも女性らしい視点を取り入れて

商品開発において一番の課題になったのは、社内調整だ。

宝島社との顔合わせを行ってから、第1回目の試食会を開いたのは約半年後とブランクがある。北欧に特化した商品を販売したことがなかったので、市場のニーズが読めなかったからだ。根気よく続けた社内プレゼンの中でも、「女性らしい視点」が役に立った。

女性にどれだけ北欧好きが多いのか。女性誌などメディアでの北欧に対する注目度や、他社の商品の動向などを調べ上げた企画書を作成するだけでなく、宝島社が先導したプロモーション計画を提示し、販売後のプロセスもしっかりと提案した。

とくに瓶を飾るテキスタイルの選定は、女性の「かわいい!」が決め手。渋谷さんの意見は、「ほとんど採用されません(笑)」。

 

また、販売担当者の後押しも大きかったそうだ。

「どんなに良い商品でも、販売担当者が売ってくれなければ世に出ません。『北欧シリーズ』は、販売担当者が『絶対に売れる』と言ってくれました。嬉しかっただけでなく、企画の段階でコンセプトや魅力が伝わる商品は、必ずヒットすると確信しました」(渋谷さん)。

コラボレーションだからこその強みをいかしたプロモーション

販売担当者の予想どおり、「北欧シリーズ」は販売してすぐにヒット商品となった。テレビの報道番組で紹介されたことをきっかけに、一時は入手困難になるほど売れたのだ。とくに京王百貨店(東京・新宿区)で2017年5月4日から11日まで開催された催事「北欧屋台」では、予想を遥かに上回る売れ行き。催事3日目で一度完売し、会期中で1000個以上を売り上げた。報道番組で紹介されたのは5日だったので、改めてメディアの影響力を実感した。

北欧の雑貨やファブリックが集まる「北欧屋台」で完売御礼。野中さんは、仕事の都合で初日から参加できなかったため、催事場に並んだ商品をすぐに見ることはできなかったという。

小冊子などを使って、ライフスタイルまで提案

プロモーション活動だけがヒットに結びついたわけではない。

雑貨と一緒に販売するなど「北欧シリーズ」の世界観を表現できる場に限定したいと、食品だけを扱う量販店などでは販売してこなかった。結果的に、店員によってその魅力をお客様に直接伝えてもらえるという、スーパーなどで陳列されているだけでは難しい効果も得られた。その効果を後押しするため、レシピなどを掲載した小冊子を作成して配布した。

魚や肉のソテーにソースとしてかけたり、パンに塗ってみたりとレシピは豊富。「北欧シリーズ」を使うだけで、お皿の上に北欧らしさが簡単に広がる。

 

また、男性が女性へのプレゼントとして活用しているといった購入者の声も届いていることから、店頭ではハンカチなど雑貨とセットにして陳列するなど、プレゼント要素も押し出した。「雑貨だけでは表現できない世界観、そして食品だけでは表現できない世界観がある」ということに気付けたことが、とても大きな収穫だ。

「北欧ソース」の瓶の使い方を「After Use」として提案もしている。小物入れにしたり、別の調味料入れたりと、活用法もアイデア次第。

 

今後は、「kippis®」で新作テキスタイルが発表されるタイミングなどに合わせて、新作を発表するなどしながら、販売先を増やしていく予定だ。しかしながら、やみくもに販路を拡大するのではなく、「kippis®北欧シリーズ」の世界観を大切に守ることが重要だと考えている。

開発営業課のメンバー。左から渋谷靖朗さん、野中木乃実さん、試作を担当している奥津円さん、鈴木美佳さん。

 

提供:マルハニチロ株式会社

 

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